敵うものはない山崎裕の手持ち
Q:撮影の山崎裕さんはドキュメンタリーの仕事も多くやられていますが、久保田監督とは普段からタッグを組まれているのでしょうか?また、初めて劇映画で組んだ印象はいかがでしたか?
久保田:今から約40年前のことですが、僕はもともとテレコムという会社にいました。そこを辞めるときに、ドキュメンタリージャパンにいた山崎さんから「面白いから来い」と言われて、ほとんど拾ってもらったような形で行ったんです。そこで一度、ディレクターとカメラマンとして仕事をしましたが「この人と一緒にやったらとても敵わないな」と思い、そこから「山崎さんと仕事しない宣言」というのをしたんです(笑)。それから10年20年と経って「そろそろ山ちゃんも歳だから、仕事した方がいいんじゃないの」と周りから言われたり(笑)、山崎さんからも「そろそろいいんじゃないか」と言われていたのですが、「いや、まだです!」と言ってそれでも仕事はしていなかった。その後やっと一緒に仕事をする機会があったのですが、これがとても面白かった。なので、それからは何度かドキュメンタリーでご一緒して頂きました。
2013年に『家路』を撮ることになるのですが、当然、山崎さんを指名するだろうと、周りの人も、もしかすると山崎さんも思っていたんじゃないかな(笑)。もちろん僕も山崎さんは頭にありましたが、自分にとっても最初の劇映画だったので、劇映画だけのスタッフでやりたかったんです。それで結局山崎さんとは一緒にやらなかった。そして今回の作品を作ることになり、それが山崎さんの耳に入ると「あいつは声かけて来ねぇんだよな」と言ってるらしい(笑)。それで「わかりました。では今回は山崎さんでお願いします!」となりました。実際にやってみると、まぁやっぱりすごいカメラマンでしたね。
『千夜、一夜』©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
Q:物語の前半〜中盤は比較的しっかりしたFIXの画が多い気がしますが、それはラストシーンとの対比だったりするのでしょうか?
久保田:山崎さんの撮影で僕が一番好きなのは手持ちなんです。彼の手持ちに敵うものはないというくらい、なんとも言えない素敵な画角でガーッと撮っていける人なので、本来だったら手持ちを多用したいのですが、多用しすぎると魅力がなくなってしまう。それでここ一番のときや、長いワンカットのときだけ手持ちでお願いしていました。じっと我慢して撮るときと動いて撮る時でメリハリをつけてやった感じですね。
Q:監督のメインのフィールドはドキュメンタリー制作かと思いますが、今後も劇映画は作っていかれますか?
久保田:前作『家路』を作ったときはとにかく楽しかったので、「60歳になるまでに、最低でも3本は劇映画を作ろう」と思ったのですが、この2作目を作るのに8年もかかってしまって、もう60歳を過ぎちゃった(笑)。でも新藤兼人さんみたいに100歳近くになっても撮る監督もいますので、そういう意味ではドキュメンタリーも劇映画もやれるだけやりたいですね。そう簡単ではないですけどね(笑)。
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監督・編集:久保田直
1960年、神奈川県出身。大学卒業後、1982年からドキュメンタリーを中心としてNHK、民放各社の番組制作に携わる。2007年MIPDOCでTRAILBLAZER賞を受賞し、世界8人のドキュメンタリストに選出される。2011年に文化庁芸術祭参加作品「終戦特番 青い目の少年兵」(NHKBSプレミアム)を演出。劇映画デビュー作『家路』(14)が第64回ベルリン国際映画祭パノラマ部門をはじめ、第38回香港国際映画祭、第17回上海国際映画祭に正式出品され、第19回新藤兼人賞金賞、第36回ヨコハマ映画祭 森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞した。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『千夜、一夜』
10/7(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会