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ウェス・アンダーソンの昨日の世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.2】

ウェス・アンダーソンの昨日の世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.2】


映画の中のツヴァイク像


 

 東欧の温泉地にある老舗ホテルの繁栄と没落を描いた『グランド・ブダペスト・ホテル』は、そんな「昨日の世界」がぎゅっと凝縮された仕掛け絵本のような映画だ。過ぎ去った日々を回想する物語はもちろん、黄昏を迎えつつあるホテルはツヴァイクが丁寧に描いたウィーンやヨーロッパそのものを表しているよう。


 終盤、ホテルが軍隊に接収され、悪趣味な旗で覆われてしまうシーンなんて、特に象徴的だと思う。「ジグザグ軍」はツヴァイクの本を焼き、故郷から追い出した例の暴力を戯画化しているわけだけど、あくまでもツヴァイクへのトリビュートのために最適化された架空のヨーロッパを描くことで、ウェス・アンダーソンの世界観が守られている。


 語り手のひとり、トム・ウィルキンソン扮する「作家」はもちろんツヴァイクがモチーフのキャラクター。物語はこのツヴァイク風の作家が、若い頃に訪れたホテルの老オーナーから聞かされた話を回想するというつくりとなっている(老オーナーの話そのものも回想なので、二重の回想ということになる)。


 老オーナーがまだベルボーイだった1930年代にホテルのコンシェルジュと繰り広げた冒険が物語の中心だが、レイフ・ファインズ演じるこのコンシェルジュ・グスタヴもまた、ツヴァイクを思わせる風貌だ。


 思わせる風貌だ、なんて言ってるけど、もちろんそんなことは初めて映画を観たときには全然思わない。ツヴァイクの顔も知らないし。でも、ツヴァイクについて少し知ると、黄昏を迎えつつあるホテルに忠誠を誓い続ける古風なコンシェルジュは「昨日の世界」を擬人化しているように見えてくる。故人であるため回想の中にしか登場しない彼は、過ぎ去った日々そのものと言えるのではないか。


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