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ウェス・アンダーソンの昨日の世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.2】

ウェス・アンダーソンの昨日の世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.2】

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『グランド・ブダペスト・ホテル』の着想元、「昨日の世界」とは



 映画『 グランド・ブダペスト・ホテル』のインスピレーション元である、シュテファン・ツヴァイクとその作品のことをぼくはそれまで知らなかったけど、大好きな映画が一体どんなものから着想を得たのかはもちろん気になるので、まずはもっとも影響を与えているという「 昨日の世界」という本を読んでみた。


 シュテファン・ツヴァイクは20世紀初頭を代表するオーストリアの国民的作家だが、やがてヨーロッパに暗い影が落ち、二度目の世界大戦に向かっていく中でその名前は葬られ、忘れられていく。ユダヤ系で、平和を愛したツヴァイクは、真っ先に理不尽な暴力の標的にされ、その著作は次々に炎の中に投げこまれたのだ。


 故郷を追われ、亡命先でもよそ者となったツヴァイクは、宙ぶらりんになったアイデンティティに苦悩しながらも、最終的にたどり着いたブラジルで回顧録を執筆する。それが「昨日の世界」だった。


 優れた観察眼で細かくスケッチされた世紀末ウィーンの街を中心に、栄華を誇ったヨーロッパ文化がどのように成熟し、崩壊に向かったのか、その中で自身は何を思い、考え、どう過ごしてきたのかを、ツヴァイクは濃密に描き出す。故郷から遠く離れた地で、失われた世界に思いを馳せながら自伝的な史料を書き上げた彼は、じきに妻とともに自ら命を絶つのだった。



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