※向かって左から平瀬謙太朗・佐藤雅彦・関友太郎
『宮松と山下』監督:関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦(監督集団「5月」) 観客に新たな映像体験を【Director’s Interview Vol.259】
ここには映画の時間がある
Q:“エキストラ“という着眼点も映像表現にうまくつながっていました。どうやって思い付かれたのでしょうか。
関:僕はNHKでドラマ部に配属され、最初の仕事は京都で撮影する時代劇でした。はじめての現場で、担当したのはエキストラでした。それが今思い返すと面白かった。エキストラの方たちは、朝は町人だったのに昼からは侍の格好をしていたりと、1日の中で同じ人が違う役を演じている。また、斬り合いのシーンでは、侍たちをいかに大勢に見せるか工夫していて、斬られた人がカメラから見えないところで起き上がり、別の侍としてまた画面に入っていく。そのエキストラならではの行為を切り取って映像にしたら面白いんじゃないかなと。
時代劇だと思って観ていたら、主役の斬り合いが続いているにも関わらず、斬られて倒れた端役の方になぜかずっとカメラが残っている。やがてその人はむくっと起き上がり違う侍となり、別の斬り合いに戻っていく。そうやってエキストラのシーンとその人の生活の部分を、全く同じトーンで並べると、面白い映画体験になるのではないのかと。それが最初にアイデアとして出て来ました。
ただそのアイデアは、それ以上は発展しなかったので一旦寝かせていました。それで今回長編を作ろうとなったときに、このアイデアを掘り起こしたんです。その後、記憶喪失なども要素の一つとして出てきて、どんどん盛り上がっていきました。
『宮松と山下』© 2022『宮松と山下』製作委員会
Q:そのアイデアの部分を香川照之さんが見事に演じられています。お芝居のニュアンスなど具体的にどんな話をされましたか。
平瀬:香川さんは脚本をすごく読み込んで下さり、イメージの引き出しをたくさん持って現場に現れました。とにかく香川さんが現場で色々と実際に演じて見せてくれる。それをひとつずつ見て議論しながら、私たち3人と香川さんで宮松という人物を作っていった感じです。僕らから事前に「今回はこういう役なので、こうしてください」と言うようなことはほとんどありませんでした。
佐藤:実際、香川さんが現場に立たないと、宮松がどんな振る舞いをするか分からないんです。例えばロープウェイの階段を降りるシーンだと、現場に立たないと、そもそも一段の長さや高さが分からないですよね。そこに立つことで初めて「宮松は、ここをどういう風に降りるんだろう?」と香川さんは我々と一緒に考え始める。「例えばこうかな?」と言ってポンポンポンと軽やかに降りると「これは宮松っぽくないよね?」と。次は「じゃあこういうのはどうかな?」と言ってトボトボ…ポン、トボトボ…ポンとトボトボした感じで降りてみると「これが宮松だよね!」となる。そうやって香川さんと我々の間で宮松像が出来てくるんです。
面白かったのはビアガーデンのシーン。香川さんが相手役の諏訪太朗さんに演技指導をしてるんです。こうじゃない、あぁじゃないとやっていて、最後に香川さんが「この現場にはね、映画の時間がある」と言ったんです。諏訪さんが「どういうこと?」と聞くと、「昔の映画づくりってさ、現場に来ていろいろ悩んだじゃない。今はそういうのが無くなってるよね。ここには映画の時間があるんだよ」と諭すように話された。それが僕は嬉しかったですね。
香川さん曰く、ドラマの撮影なんかだと「次こういう顔をしてください! 次は怒鳴ってください! 次は走ってください!」そう言われながら撮っていたと。それは映画じゃないんだと言うんです。監督やスタッフと一緒に「これはどうだ、これは違う」と試行錯誤する運動自体が、香川さんにとっては映画だったんですね。