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『宮松と山下』監督:関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦(監督集団「5月」) 観客に新たな映像体験を【Director’s Interview Vol.259】

※向かって左から平瀬謙太朗・佐藤雅彦・関友太郎

『宮松と山下』監督:関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦(監督集団「5月」) 観客に新たな映像体験を【Director’s Interview Vol.259】

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「手法にとらわれて中身が…」という言葉を耳にすることがある。こと映画においては、手法という言葉はネガティブに捉えられることもままある。しかし『宮松と山下』は手法ありきで始まった映画。監督集団「5月」の3人はそう言い切った。そして我々観客はその手法にまんまとはまり、映画館の暗闇の中で映像の面白さに溺れていく。奇抜なものは何もない。そこにあるのは、手法が牽引する物語と唸らされる演技だけ。それはまさに映画体験の醍醐味だ。


監督集団「5月」の3人は手法に何を見出し『宮松と山下』を作ったのか?話を伺った。



『宮松と山下』あらすじ

宮松は端役専門のエキストラ俳優。ロープウェイの仕事も掛け持ちしている。時代劇で大勢のエキストラとともに、砂埃をあげながら駆けていく宮松。ヤクザのひとりとして銃を構える宮松。ビアガーデンでサラリーマンの同僚と酒を酌み交わす宮松。来る日も来る日も、斬られ、撃たれ、射られ、時に笑い、そして画面の端に消えていく。そんな宮松には過去の記憶がなかった。ある日、谷という男が宮松を訪ねてきた。宮松はかつてタクシー運転手をしていたらしい。藍という12歳ほど年下の妹がいるという。藍とその夫・健一郎との共同生活が始まる。自分の家と思えない家にある、かつて宮松の手に触れたはずのもの。宮松の脳裏をなにかがよぎっていく・・・。


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まず“手法”ありき



Q:CMや短編映画など、これまで様々な映像を作ってきた皆さんですが、今回はなぜ「長編映画」だったのでしょうか。 


平瀬:過去に短編映画を4本作ったのですが、そのうちの2本でカンヌ国際映画祭(以降:カンヌ)に招待して頂きました。実際にカンヌを訪れ、映画祭のディレクターと顔見知りになってくると、「次は長編だね」言われるようになりました。カンヌ自体が新しい才能を発掘する機能を持っているので、そういったアドバイスをくれるんです。もともと、いつかは長編に挑戦してみたい気持ちもあったので、だったら次は長編を作ろうということになりました。


Q:実際にプロジェクトがスタートしたのはいつですか。


平瀬:もともとは大学の佐藤雅彦研究室から始まった活動でして、当初は「c-project」という名前が付いていました。その後、この活動により専念するために、関が当時勤めていたNHKを辞めて、3人で会社を立ち上げ、以来私たちは監督集団「5月」と名乗るようになりました。その発足がちょうど2020年で、そこから長編に取りかかった感じです。


Q:短編から長編になることで、何か違いは感じましたか。


関:僕たちはこれまで、新しい映像手法から映画を作る、という試みを続けてきました。例えば以前に作った短編の『八芳園』(14)では、結婚式の集合写真の人々を同じ画角だけで切り取り、あえて全体像は見せていません。それは短編だからこそやりきれる独特な手法であり、観客にとっても異質で面白い映像体験となる。ただし長編となると、その手法だけで成立させることは難しくなってきます。ストーリーやテーマなど、具体的なものを詰め込まないと成立しない。そこは企画の段階から感じていて、実際に作り始めても一番難しかった。自分たちにとって最も挑戦した部分でしたね。



『宮松と山下』© 2022『宮松と山下』製作委員会


佐藤:なぜ我々が映像手法に興味があるかといったら、観客に新しい映像体験をさせたいから。つまり新しい表象を起こさせたいんです。映画のはじまりでは、リュミエールが機関車の映像を壁に映すと、観ていた人は皆よけた。すごい映像体験ですよね。その後、クレショフ効果の映像理論やモンタージュ手法などによって色んなストーリーが作れるようになり、映画はどんどん発展していく。その都度新しい映像体験をさせてきたと思うんです。でも映像にはまだまだ可能性があって、まだ発展段階とも言えます。最近の映画では原作を元に脚本を作ることが多く、文字主体でストーリーが流れる感じがありますが、だったら小説が充分過ぎるほど、その任を果たしています。やっぱりリュミエールがやったように、映像自体で人々を楽しませたり驚かせることがすごく大事だと思うんです。


我々は映像言語とよく言っているのですが、映像言語で新しい映像体験をさせたい。その大元になるのが“手法”なんです。だから作り方としては、まず手法があって物語やテーマが出てくる。原作モノにはテーマが含まれていて、それに感動したから脚本化するようなことなのでしょうが、我々はまず手法がありき。逆なんです。


普通の映画作りとはちょっと違っているのですが、でもちょっと新しい作り方かなと思っているんです。「作り方が正しければ出来たものは自ずと正しくなる」という信条も私にはあるので、手法から作るという我々の作り方には、何か可能性があるのではないかと思っていました。でもそれは本当に可能性だけだったんです。


今回サンセバスチャン国際映画祭に行って、約600人の観客と一緒にこの映画を観たのですが、その手法のところはすごくウケるんです。映画を作った直後は「これでいいのかな、どうなのかな」と思ってました。でも映画祭で起こったあの笑いや驚きを体験すると「もっとやってもいいんだな」と確信したんです。正直、自信になりました。





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