※向かって左から平瀬謙太朗・佐藤雅彦・関友太郎
『宮松と山下』監督:関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦(監督集団「5月」) 観客に新たな映像体験を【Director’s Interview Vol.259】
14分の短編の編集に2年かけた
Q:編集は脚本どおりだったのでしょうか。それとも変えた部分はありますか?
関:結構変わりました。編集で一番面白いつながりを見つけていく感じでしたので、いくつもの組み合わせにトライして。撮影現場で新しく付け足したシーンやカットもたくさんあります。
Q:編集も独特で、特にその“間”は興味深いです。いつもどのようにつなげているのでしょうか。
関:エキストラの撮影なのか地の生活なのか分からない感じは、やっぱり一度つないでみないと分からない。脚本の段階である程度は想定して構成を考えていますが、編集で本当に変わってくるんです。編集のときに見つかる面白さは確実にあって、とにかく編集はものすごく時間をかけます。
平瀬:編集に時間をかけるのはいつものことで、編集でかなり変えていきます。それは物語を変えるというよりも、本当にやりたかったことを探し直す作業に近い。
関:自分たちが今まで作ってきた短編でも、編集で面白いものを見つけたことが多々あった。このつなぎは想定してなかったけど、つなげてみたら凄かった。ということはたくさんあるんです。実はそこに頼っている部分もあって、編集でいろいろ出来るように色んなパターンを撮っておきます。
ただ、撮影現場だと「あれも撮ろう、これも撮ろう」というのは悪いことだという空気がどうしてもあります。ディレクターはちゃんとビジョンを決めて現場に入り、撮影時間を守るべきだと。でも、特に映像手法に頼って映画を作る場合は、最終的に編集の場で手法が成立するカットつなぎを見つけることがすごく大事になってくる。そのため、どうしても撮影素材の量が必要になってくるんです。
『宮松と山下』© 2022『宮松と山下』製作委員会
Q:画角や構図がかなり整然とした印象があります。カメラマンとはどのようなことを話されたのでしょうか?
関:大事なのは、エキストラの撮影と地の生活で差をつけないこと。だから全て同じトーンで撮るという大きな構想はありました。カメラマンには画コンテを渡していますが、以前の短編と同じ國井重人さんにお願いしているので、信頼感がありました。
Q:冒頭の瓦のカットが素晴らしくカッコいいです。
関:あれは國井さんが撮影の合間に撮ってくれた実景です。お任せで色んな画をたくさん撮ってもらっているんです。脚本の冒頭には「並ぶ瓦」なんて全く書いてないのですが、いきなりあの瓦が出てきたらすごくカッコいい。それは編集で気づきました。國井さんが撮ってくれる実景カットはどれもすごく良くて、そういう素材に助けられながら編集してるところはありますね。
平瀬:そうやって、とにかく編集は回数を重ねます。今回も何十バージョンもあるんじゃないかな。
佐藤:最初にカンヌに行ったときの『八芳園』は2年くらい編集しましたね。
平瀬:そうですね。14分の短編の編集に2年かけました(笑)。
関:『八芳園』は卒業間際に先生に声を掛けていただいて作り始めたのですが、大きな目標は卒業前に完成させてカンヌに出すことだった。でも、編集をしてみたらこの作品をもっと面白くできる方法を見つけたので、、カンヌへの応募を1年遅らせることになった。それから丸々1年かけて、追撮して編集し直した。実力不足もあったかもしれませんが、再編集して見つかるものもたくさんありましたね。
佐藤:卒業記念で作るにしても、もうちょっと本気でやらないといけないと。
平瀬:そうしたら奇跡的にもカンヌに届いた。
佐藤:我々はまさにそこから始まっているんです。
関:その時のカンヌの審査委員長はアッバス・キアロスタミで、「最初の5分はパーフェクトだ。あなたたちのやりたいことは最初の5分で全部出来ていたが、残りの時間は冗長だった」と言われたんです。「なるほど、そうだったのか」と。そしたら、佐藤先生が映画祭の会場を出るなり僕らを集めて、「そういうことを言われたし、確かに思うところもある。だから日本に帰ったら再編集しましょう」と言ったんです。「うそー!」って思いましたね(笑)。あれだけ突き詰めて作って、それが奇跡的にカンヌに引っかかったのに、それを更に崩そうとしている。これはすごいことになったなと。それで実際に帰国後にまた編集しました。カンヌに出したのは14分くらいあったのですが、その後の完成形は12分になった。その精神が今でも続いているなと思いますね。
※『宮松と松下』は一度完成した作品で映画祭出品やマスコミ試写を実施したが、その後更に再編集が施された。上映時間も85分から87分となった。
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監督・脚本・編集:監督集団「5月」gogatsu
「手法がテーマを担う」という言葉を標榜し、新しい表現の開拓を目指す映画・映像の監督集団。2012年東京藝術大学大学院 佐藤雅彦研究室から生まれた映画制作プロジェクト「c-project」として活動を開始。初作品となる短編映画『八芳園』(14)がカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。続く短編映画『どちらを』(18/主演・黒木華)にて、再びカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。20年、監督集団「5月」発足。その後、短編映画『散髪(21/主演・市川実日子)がクレルモン・フェラン短編映画祭から正式招待。初の長編映画である本作『宮松と山下』(主演・香川照之)がサンセバスチャン国際映画祭New Directors部門に正式招待された。
関友太郎
1987年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科修士課程修了。在学中、佐藤雅彦研究室に所属し映像制作を学ぶ。2012年、NHKに入局。主にドラマ番組の演出業務に携わる。20年から監督集団「5月」のディレクターとして映画やドラマをはじめとした映像作品の監督を務める。12年、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品選定、13年イメージフォーラムフェスティバル優秀賞、17年、東京ドラマアウォード・ローカルドラマ賞受賞。
平瀬謙太朗
1986年、サンフランシスコ生まれ。慶応義塾大学SFC脇田玲研究室卒業。その後、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修士課程修了。在学中、佐藤雅彦研究室に所属しメディアデザインを専攻。2013年、デザインスタジオ「CANOPUS」設立。20年、監督集団「5月」発足。メディアデザインを活動の軸として、映像・映画・デジタルコンテンツ・グラフィック・プロダクトなど、様々なメディアにおける新しい表現を模索している。12年、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品選定、17年、朝日広告賞準朝日広告賞、20年、映文連アワードコーポレート・コミュニケーション部門優秀賞受賞。脚本に参加した川村元気監督作品『百花』が公開中。
佐藤雅彦
1954年、静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、電通を経て、94年、企画事務所「TOPICS」設立。99年より慶應義塾大学環境情報学部教授。2005年からは東京藝術大学大学院映像研究科教授。現在は東京藝術大学名誉教授を務める。著書に『佐藤雅彦全仕事』、『経済ってそういうことだったのか会議』、他にゲームソフト『I.Q』などがあるNHK・Eテレの大ヒット作『だんご3兄弟』では作詞と企画を務め、同局の人気番組『ピタゴラスイッチ』『2355』『0655』の企画・監修を担っている。07年、ニューヨークADC賞金賞、11年、芸術選奨、日本数学会出版賞、13年、紫綬褒章、19年、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門大賞受賞。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『宮松と山下』
11/18(金)新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
© 2022『宮松と山下』製作委員会