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『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』オーガスティン・フリッゼル監督 人生を楽しむことを自分自身に許す【Director’s Interview Vol.270】
ティーンのドラッグ/犯罪コメディを作る
Q:この映画が作られた2017年ごろ、アメリカではオピオイド問題(※)が社会問題として深刻化していました。そんな中、ティーンエイジャーのドラッグ映画を作ることにリスクやプレッシャーはありませんでしたか?
フリッゼル:特にありませんでした。たしかに大きな問題ですが、オピオイド問題は2017年に限らず、長い間あったものだからです。私の父は鎮痛剤の依存症を患っていたので、私が子どものころから、父が病院に行き薬をもらうことは大きな出来事でした。だから私は、オピオイド問題とティーンの薬物使用は別の問題だと考えているんです。ティーンの薬物使用は、あえて言うなら“青春”とも呼べるもの(笑)。ほとんどのティーンエイジャーには――もちろん全員とは言いませんが――薬物を使った経験があるはず。オピオイド危機や処方薬、製薬会社の資本などに物申すのではなく、ティーンのカジュアルな薬物使用を描くことや、自分自身の物語を映画として語ることに注力しました。
(※)オピオイド問題:医師処方の麻薬系鎮痛薬がアメリカにて蔓延し、その依存性の高さから依存症患者が続出、過剰摂取による多くの死亡者を出した社会問題。依存者が処方薬を受け取れなくなったのち、安価のドラッグに流れるなどの問題も付随して発生した。2017年にはドナルド・トランプ元大統領が「オピオイド危機」を宣言している。
Q:大麻入りのクッキーを食べてハイになるシーンで、いわゆる映像効果ではなく、パンケーキに焦点を合わせるなど、工夫された最低限の演出が用いられていたのが印象的でした。どういった経験やアイデアから生まれた演出だったのでしょうか?
フリッゼル:うーん……どうでしょうね(笑)。撮影中から、特別なエフェクトを加えることはしたくないと思っていたんです。むしろ誠実に撮ろう、彼女たちが何を考えているのかが理解できるものにしようと。それに、麻薬や幻覚剤だったらそういう効果を使う気になったかもしれませんが、これは大麻ですから。経験上、大麻でハイになると食べ物に気持ちが向かい、とにかく食べたくなるんです(笑)。だから、よくピザを頼んで丸ごと食べていましたよ。そういう説明不能の食欲を見せたいと思い、撮影でも食べ物に集中することにしました。その後、編集しながら「もっと笑えるものにしよう」と思い、ああいう仕上がりになったんです。
『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』©2018Muffed Up LLC. All Rights Reserved.
Q:本作は“ティーンの犯罪コメディ”だと言えますが、アンジェラやジェシーがまるで反省せず、また学習もしないところに、作品の魅力である軽やかさと開放感があります。わかりやすい教訓やメッセージを排除しようと決めたのはなぜでしょうか?
フリッゼル:「となりのサインフェルド」(89~98)をご存知ですよね? あの番組では、登場人物たちがどのエピソードでも成長せず、また教訓を得ることもない。それが楽しくて大好きでした。同じことをしたかったわけではありませんが、自分にとっては大きな作品です。
実際のところ、人生における大きな教訓を客観的に評価することはできないと思います。若いころはできると思っていても、実際には無理。自分自身を振り返っても、当時思っていた以上の学びや変化があったと感じますね。年齢が若いほど、実際に何が起こっているのかを認識するのは難しい。それが教訓を描かなかった理由のひとつです。
個人的には、映画にせよ現実にせよ、目標を設定することは「生産的な人間であること」だと思います。もちろんそれは大切なことですが、だいたいの場合、苦しみや惨めさを乗り越えるためには幸せを探さなくてはいけないし、幸せを与えてくれる目標を見つけなくてはいけません。それが達成されれば、自分の生きたい人生を生きていることになるような目標をね。
私は野心のある人間なので、良い仕事をしたいし、常に仕事をしています。だからこそ、「仕事だけが人生じゃない」と時々自分に言い聞かせているのです。大切なのはバランスで、あの少女二人も、若いころの私自身も、惨めさを乗り越えるためにビーチに行ったり、ドーナツを食べたり、猫をなでたりしなければならなかった。そうすることで、大変な状況にも喜びと楽しみが生まれるのです。そうやって人生を楽しむ自由を自分自身に許してあげられないと、人生はあまりにも暗すぎますから。