『[窓] MADO』麻王監督　デッサンすることが自分の認識も作っていく【Director’s Interview Vol.272】

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2022.12.19香田史生

日本と海外、両方の視点で

Q：西村まさ彦さんやMEGUMIさんなど、キャスティングの経緯を教えてください。

麻王：MEGUMIさんは、ボートレースのCMで2年間くらいご一緒していたので、その関係値もあってご相談しました。西村さんとは何の関係値もなかったのですが、そのときたまたま僕が『黒い家』（99）を観ていて、それで西村さんにお願いしようと思ったんです。脚本を送ったところすぐに出演のお返事をいただきました。あとで本人に聞いたところ、脚本の中身ではなく、僕が前付けで書いた文章を読んで出演を決めてくれたそうです。自主映画なのでお金が全然無いことなどもお伝えしていたのですが、それでも出演を快諾してくださった。西村さんもMEGUMIさんも二人とも個人の事務所でご自身が社長なんです。だから商業の基準ではなく、あくまでも自分がやりたいことを優先して決断してくださったようでした。

Q：俳優の皆さんへの演技指導はどのようにされたのでしょうか？

麻王：読み合わせの時に、A家とB家の家族について状況を細かくお伝えしました。それを踏まえた上で、皆さん役作りをして現場に来てくださいました。また、A家の娘役の二宮芽生ちゃんには、咳の仕方を細かく指導しました。僕自身がもともと小児喘息で喘息持ちだったので、その咳の息苦しい感じを伝えました。普通の咳だと気管支が鳴る音が出ないんです。その苦しさや音に関しては、めちゃめちゃ細かく指導しましたね。

Q：今回、初めて映画を監督してみていかがでしたか？

麻王：僕はCMディレクターですが、広告だけをやりたいわけではなく、映像コンテンツが好きで、それを作っていきたい。先ほども言いましたが、ジャッキー・チェンが大好きで、ジャッキーでアクションコメディをやりたいのが僕の原点です。でも今の日本で映像コンテンツを作ろうとしても、とにかくお金がない。日本の中だけでしかお金をまわせていなくて、海外を見てないからなんでしょうね。

今回は自己資金でなんとか作りましたが、今の資本規模ではそんなに大きなことは出来ない。マネタイズの知識や経験はゼロなので、ここからが難しいですね。それを解決するには自分で事業を立ち上げて、ポケットマネーを年間数十億くらい稼がないといけない（笑）。ただ今回のテーマは海外にも通用すると思っているんです。化学物質過敏症は欧米の先進諸国でも問題になっているので、海外の映画祭などにも出品していこうと思っています。それをきっかけに世界に出ていきたいなと。

日本だけでものづくりをしていく難しさは確実にあって、「ガラパゴスでいいんだ！ガラパゴスを突き詰めれば」みたいな意見もある。でもやっぱり、日本と世界の両方でやる目線を持つ必要があると思うんです。両極の目線が大事。まさに陰と陽で見る老荘思想ですね。僕はこのタオイズム（老荘思想）が好きなんです（笑）。自分の中で矛盾をしてでも相反するものを受け入れて、両方やることが大事だと思っています。

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原案・脚本・監督・編集：麻王/MAO まおう

1988年9月28日神奈川県横浜市出身、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業、2012年東北新社入社、中島信也に師事、2014年演出家デビュー、2020年フリーランス独立、OND°所属映像ディレクター。愛と笑いをテーマに、CMをベースに映像制作。カーセンサー、OKAMOTO、LOTTEクーリッシュ、BOAT RACEシリーズ（2019~現行）、Yahoo!PayPay、mixiモンスターストライク、SUNTORYストロングゼロ、キヤノンEOSなど。

取材・文：香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ　魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影：青木一成