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『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

Photos (c)Christine Plenus

『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

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カンヌ国際映画祭の常連であり、パルムドールを2回受賞した(99年『ロゼッタ』、05年『ある子供』)数少ない監督であるダルデンヌ兄弟。さらに2022年には、新作『トリとロキタ』で同映画祭の75周年記念大賞を受賞する快挙を遂げた。


本作は、アフリカからベルギーにそれぞれ渡ってきた12歳のトリと17歳のロキタが、「姉と弟」と偽りながら、大人たちに不法に搾取されるなかで支え合い、友情を育むさまを描く。迫害された子供としてビザを得たトリに比べ、ロキタにはビザが下りない。故国の親に仕送りをしなければならない彼女は、偽造ビザと引き換えに、外界から遮断された劣悪な大麻栽培所での仕事を引き受けるが、トリとの連絡を遮断されたことでパニックを起こす。


シンプルでいて効果的。まるでアクション・スリラーのような緊張感を孕みながら、観客の心を鷲掴みにする。つねに弱者の立場から社会の不正、不条理を描くと同時に、「社会派映画」という枠を突き抜け語りかけてくる、ダルデンヌ兄弟の真骨頂と言える。本作の背景とそこに込めた思いを彼らに語ってもらった。


Index


生身の身近な存在として感じてもらうこと



Q:今日、とくにヨーロッパでは移民の問題が大きく取り沙汰されていて、映画のテーマになることも多いと思います。ただあなた方の作品はつねにそうであるように、こうした社会的なテーマがとても身近な事として感じられます。それはふたりの主人公の日常のディテールと感情面に迫っているからだと思いますが、こうしたアプローチにおいて、もっとも大事なことは何でしたか。


リュック:そう言って頂くととても嬉しいです。実際、わたしたちにとってこの作品で描きたかったことは2つです。ひとつはふたりの未成年の移民の間の友情。そしてもうひとつは、彼らが直面する事態や生活条件を告発することです。それゆえに本作を撮り始める前に、現実はどんな状況になっているのか多くのことをリサーチしました。そして発見したことは、大麻の違法栽培の現場には、実際にこうした未成年の移民たちが働かされていることです。彼らは正式な滞在許可証を持ちたいと願っているために、こういう状況に陥ってしまう。そしてしばしば性的な虐待も受ける。


でもわたしたちはできる限り、「ほら、彼らが犠牲者だよ」という印象を与えることを避けながら、彼らの姿を追いたかった。どのみち彼らは犠牲者であることに変わりはない。小さく、無力な存在のふたりが搾取され、苦しんでいる。もうそれだけ見せれば、声高に訴えることなく観客には理解できます。でも彼らは犠牲者である一方で、それぞれ戦いながら生きようとしている。なんとか新しい社会に馴染もうと努力している。ロキタはビザを得たら家事ヘルパーになり、トリと一緒に暮らすことを夢見ている。トリもロキタと暮らしながら勉強する将来を夢見ている。彼らが友情を育めば、物語はもっとエモーショナルで力強いものになると思ったのです。



『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv -  PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)


ジャン=ピエール:補足するなら、だからこそあなたが言うように、どんな報道やテレビ番組よりも身近な問題として感じられると思うのです。わたしたちはふたりの子供たち、この世界でもっとも無防備に晒されながらも、友情によってそれに抗おうとしている彼らの姿を描きたかったのです。わたしたちが映画に期待することは、ふたりのキャラクターに人生をもたらし、彼らの人生を通じて我々みんながこの問題に意識的になってくれることなのです。





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