イチとハルのバランスに込めたもの
Q:今回はパンクでやんちゃな永瀬さんを見ることが出来て、喜んでいるファンの方も多いと思います。イチは監督の藤沼さんを投影する部分もあったかと思いますが、どのようにイチを作られたのでしょうか。
永瀬:この映画は『ボヘミアン・ラプソディ』(18)や『ロケットマン』(19)のように忠実に再現した伝記ではなく、藤沼監督と脚本の港岳彦さんが作ったフィルターが入っています。そんなこともあり、僕は100%藤沼監督をコピーするのではなく、監督の纏っていらっしゃるものや醸し出されるものをペーストとして表現できればと。目の前の監督から発されるものを浴び続けようと決めていました。迷ったら目の前に本人がいるわけですから、その安心感はすごくありましたね。
また、監督はギターを持つと顔色が変わる。ステージに立つとそれまでとは全然違う雰囲気が出てきて、ドラムがなった瞬間に「亜無亜危異」&「ギタリスト」になる。その積み重ねられた凄さを間近で見て感じました。でもステージを降りるとまた温和な顔に戻るんですけどね。
北村:ライブのシーンは「俺も出る!俺も出る!」と音楽業界で有名な方が集まってくれたらしいです。「え?この人も⁉︎」って方がたくさん出演されてますよね。
永瀬:別な場面でも、あのPANTAさん(頭脳警察)まで出演されてますから。「亜無亜危異」と「頭脳警察」って、よく考えるとすごいよ。町田康さんも。
Q:藤沼監督いわく、イチとハルとアニマルの三人だとバランスが取れているものの、アニマルが外れると、残された二人には距離感があったとのこと。歩道橋のシーンでまさにそれが描かれるわけですが、意識されたところはありますか。
永瀬:今思い返すと、その歩道橋シーンがメインのひとつだったのかもしれません。あの歩道橋での三人の空間はバランスが取れていた。で、アニマルが二人からふっと距離を置くと、お互い意識はしていないのに、何か極薄い膜のような歪みが現れる。何者にも変え難い親友同士なのに、一対一になるとイチもハルも三人の時と微妙に何かが違う。ハルの「イチって、俺にバーカって言わないよね」というセリフにもドキッとするし、全体でもフックになる箇所だったと思います。その微妙なバランスとアンバランスの混ざり加減が難しくもあり、でも結果的にとても好きなシーンのひとつになりました。監督からも実際にマリさんと監督との関係性において潤滑油的な存在が仲野(茂)さんだったかもしれないな、とお聞きしていましたし。*
*)マリさん、仲野茂さんは亜無亜危異のメンバー、それぞれハル、アニマルのモデル。
『GOLDFISH』©2023 GOLDFISH製作委員会
Q:あのセリフは多くの方に刺さると思いました。
永瀬:そうであるといいですね。バンドを再結成する物語の中に、仲間や親子、恋人との関係や挫折、社会や学校等のコミューンの中での自分の立ち位置や葛藤など様々なものが散りばめられています。年齢や性別、「亜無亜危異」を知っている、知らないに関わらず、多くの方に受け取ってもらえると嬉しいですね。
北村:最後の方で「今やった方が絶対カッコイイよ!」とアニマルが言うのですが、あれはまさに監督の叫びですよね。渋川くんの声量もド直球ですごくよかった。結構揺さぶられたし響きました。このバンドを知らなくても、気がついたらこの映画にどっぷりハマっていると思います。
この作品、ある方面の方々にはメチャメチャ注目度が高くて、つい先日もクドカン(宮藤官九郎)さんから「亜無亜危異の映画やるって聞いたんだけど本当なの?なんで⁉︎出たの⁉︎」って、すごい食いつきで聞かれました。「なんでお前がハルなんだよ!」って何故か怒られたりもしましたね(笑)。
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永瀬正敏
1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。1983年、映画『ションベン・ライダー』でデビュー。『息子』(91)で日本アカデミー賞新人俳優賞・最優秀助演男優賞他、計8つの国内映画賞を受賞。その後日本アカデミー賞は、優秀主演男優賞1回、優秀助演男優賞2回受賞。海外作品にも多数出演しカンヌ国際映画祭・最優秀芸術貢献賞『ミステリー・トレイン』(89)、ロカルノ国際映画祭・グランプリ『オータム・ムーン』(91)、リミニ国際映画祭グランプリ、トリノ映画祭審査員特別賞『コールド・フィーバー』(95)では主演を努めた。台湾映画『KANO』(15)では、金馬奨で中華圏以外の俳優で初めて主演男優賞にノミネートされ、『あん』(15)、『パターソン』(16)、『光』 (17)でカンヌ国際映画祭に3年連続で公式選出された初のアジア人俳優となった。近年の主演作は『赤い雪』(19)、『ファンシー』(19)、『BOLT』(20)、『名も無い日』(21)、『ホテルアイリス』(22)。待機作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』(23.3.24 公開)ほか。2018 年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
北村有起哉
1974年4月29日生まれ、東京都出身。1998年に舞台「春のめざめ」と『カンゾー先生』でデビュー。その後、舞台と映像の両面で活躍する。主役・脇役、ジャンル、キャラクターなどの境界線に一切とらわれない表現力でそのふり幅の大きさを縦横無尽に体現している。近年の映画出演作は『太陽の蓋』(16)、『オーバーフェンス』(17)、『長いお別れ』(19)、『町田くんの世界』(19)、『新聞記者』(19)、『生きちゃった』(20)、『浅田家!』(20)、『本気のしるし ≪劇場版≫』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『すばらしき世界』(21)、『終末の探偵』(22)など多数。公開待機作に『水は海に向かって流れる』(23)、『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(23)がある。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
永瀬正敏
Stylist:渡辺康裕
HAIR&MAKE:勇見勝彦(THYMON Inc.)
北村有起哉
Stylist:吉田幸弘
HAIR&MAKE:榊原みさと
『GOLDFISH』
3月31日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
配給:太秦
©2023 GOLDFISH製作委員会