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『ミステリー・トレイン』音/音楽が繋ぎ合わせる3つの「人生=旅」 ※注!ネタバレ含みます。

(C)Mystery Train, INC. 1989

『ミステリー・トレイン』音/音楽が繋ぎ合わせる3つの「人生=旅」 ※注!ネタバレ含みます。

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『ミステリー・トレイン』あらすじ

とある一夜に、メンフィスのホテルを訪れた3組の旅人を描くオムニバス映画。工藤夕貴、永瀬正敏らが出演。1989年のカンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞作品。


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異邦人、憧れの地へ──「ファー・フロム・ヨコハマ」



 『パーマネント・バケーション』(80)で長編監督デビューを果たして以降、世界中に数多くのファンを持つジム・ジャームッシュ監督。同作では、社会にうまく馴染めない高校生の日々をミニマルかつリリカルに綴った彼だが、ジャンルレスに映画作品を手がける監督だということは広く知られているだろう。


 オフビートな脱獄劇『ダウン・バイ・ロー』(86)、世界各地の夜を走る“タクシー”を舞台とした『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、禁欲的な会話劇『コーヒー&シガレッツ』(03)、“ヴァンパイアによるラブ・ストーリー”『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)、一人の男の何気ない日常を見つめた『パターソン』(16)などなど、個人的に偏愛するジャームッシュ作品を列挙してみたが、市井の人々に焦点を当てた小品から“ジャンル映画”まで、そのフィルモグラフィーはじつに多彩。ゾンビ・コメディ『デッド・ドント・ダイ』(19)も鮮烈に記憶に刻まれている。こう並べてみることで、ジャームッシュ監督の好奇心旺盛な奔放さがやはり目立つが、いずれの作品に共通するのは“肩の力が抜けている”ということだ。


 そんなジャームッシュ監督による長編第4作目が、カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞に輝いた『ミステリー・トレイン』(89)である。本作は、アメリカのテネシー州にある都市・メンフィスを舞台に、3つの物語が展開するもの。つまりはオムニバス作品だ。メンフィスといえば、エルヴィス・プレスリーやカール・パーキンスといった、ロックンロール界の立役者にしてレジェンドである彼らを生み出した町としても知られる。“ロックンロールの町”だ。


『ミステリー・トレイン』(C)Mystery Train, INC. 1989


 この町へ、一組の男女が列車に乗ってやってくる。プレスリーやカール・パーキンスの熱狂的なファンなのだという男・ジュン(永瀬正敏)と女・ミツコ(工藤夕貴)は、日本の横浜から来たらしい。これが第1章「ファー・フロム・ヨコハマ」である。


 この二人、どうにもメンフィスの町から浮いている。劇中において、ミツコほどパンキッシュなスタイルの女性は見当たらないし、ジュンほど気張ってジャケットを羽織っている男性もいない。メンフィスという、憧れの地の“TPO”に彼らなりに合わせてのことなのだろうが、どうにもハマっていないのだ。いうなれば、“背伸び”しているように見えるのである。一本の棒にトランクを吊り下げて二人で運ぶ姿はユニークかつチャーミングだが、江戸時代の“駕籠かき”のようにも見える。彼らのこのハマっていない感じや妙な“ズレ”は、たとえば日本人がニューヨークへと出かけて、「I LOVE NEW YORK」とプリントされたTシャツを着るようなものではないかと思う。それでもジュンは、肩をいからせてメンフィスの町を歩くのだから、なんとも愛らしい。


 そんな憧れだけでこの町へとやってきた彼らの“ズレ”は、その身なりや雰囲気にとどまらない。とうぜんながら、現地の人々との言語によるコミュニケーションはままならないし、誰かの世話になろうとも、日本人の彼らには“チップ”などの文化も馴染みがないのだ。さまざまなかたちで生じるこの“ズレ”は、この後に続く2つの章にも見られる本作の核ともいえる。




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