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『パーマネント・バケーション』ジム・ジャームッシュという映画作家のすべてがある学生時代のデビュー作

(c)1980 Jim Jarmusch

『パーマネント・バケーション』ジム・ジャームッシュという映画作家のすべてがある学生時代のデビュー作

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『パーマネント・バケーション』あらすじ

ニューヨークの裏街を眠れないまま漂流する16歳の若者アロイシュス・パーカーが周囲のアウトサイダー達と出会うことで、自己を旅へと向かわせていく。


Index


卒業できなかったニューヨーク大学の大学院卒業制作



 処女作に作家のすべてがある――。


 至るところで引用されている超有名なテーゼにもかかわらず、正確な出典は不明という詠み人知らずなこの言葉(例えばオーソン・ウェルズは「ひとりの映画作家について知るべきことは、すべてその第一作の中に見られる」と発言し、文芸評論家の亀井勝一郎は「作家は処女作に向けて成熟する」と書き残している)。ともあれジム・ジャームッシュほど、「処女作に作家のすべて」を綺麗に装備していた映画作家は珍しいかもしれない。言い換えれば彼は、ほとんど何も変わらずに、40年近いキャリアをブレずに歩んできたということだ。


 その重要な第一作とは1980年の『パーマネント・バケーション』。一般的なデビュー作として知られている『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)より前に、ニューヨーク大学の大学院映画学科の卒業制作として16mmフィルムで撮ったものだ。12,000ドルの低予算だが、製作費に授業料や奨学金をつぎこんで大学院を卒業できなかったという、これまた非常にジャームッシュらしいオマケのエピソードまでくっついている。


『パーマネント・バケーション』予告


 まずは「永遠の休暇」というタイトルが、いきなり「作家のすべて」を正確に自己規定しているようだ。主人公は若き放浪者、16歳のアリーことアロイシユス・パーカー。演じるのは当時15歳、実際に根無し草の生活を送っていた素人の不良少年クリス・パーカー。ポンバドールの髪型など50’s風のスタイルで登場する彼は、映画の冒頭のモノローグでこういった具合に自己紹介する。


 「僕の名前はアロイシユス・クリストファー・パーカー。息子を持ったらチャールズ・クリストファー・パーカーと名づけてやるつもりだ。チャーリー・パーカーっぽく、ね」



『パーマネント・バケーション』(c)1980 Jim Jarmusch


 言うまでもなくチャーリー・パーカー(1920年生~1955年没)は、映画『バード』(88/監督:クリント・イーストウッド)でもその短い生涯が描かれた伝説のジャズ・ミュージシャン。アロイシユスはクリスが決めた役名だというが、フランスの幻想詩人アロイジユス・ベルトラン(1807年生~1841年没)を露骨に連想させる名前だ。彼は生前無名のままだったが、遺作詩集「夜のガスパール」が死後に評価されてボードレールやアンドレ・ブルトンに影響を与えた。


 共に30代で夭折したふたりの偉大なカルチャーヒーローについてさりげなく言及されるこのオープニングから、現在まで一貫して続くジャームッシュの韜晦込みの引用癖が炸裂している。



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