※2017年9月記事掲載時の情報です。
『パターソン』あらすじ
ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。
Index
- 双子って同じ人? いえ、違う人が二人並ぶだけ。違うことを受容するパターソンの街
- アダム・ドライバーの過去が、主人公パターソンの二面性を強化する
- お気楽妻ローラ役のゴルシフテ・ファアハニの歩んだ壮絶人生
双子って同じ人? いえ、違う人が二人並ぶだけ。違うことを受容するパターソンの街
ロングランヒットとなった映画『パターソン』。アメリカ、ニュージャーシー州にあるパターソンという町に暮らす、パターソンという名のバスドライバーの、とある一週間をジム・ジャームッシュが瑞々しい感性で綴ったものだ。
パターソンは愛妻を起こさないようにそっと早朝にベッドから抜け出し、淹れたてのコーヒーとシリアルの朝食をとり、始発からパターソンの街を練り歩く。毎日、同じパターンの仕事が続くが、彼は詩人でもあり、バスに乗り込んでくる乗客の豊かな会話に耳を傾け、街の息吹やうねりを間近に感じながら、一日を終える。
当然のことながら、「乗客」と一言で言っても、乗ってくる人の肌の色も年齢も会話の中身も実にバラバラ。こういう多彩な人たちがいてこそ、街は面白いし、意外性も面白い、と、いうことをジャームッシュは愛情をこめて描いているのだが、そこにちょっと差し込まれるのが双子のエピソード。月曜日、妻のローラは双子を持つ夢を見て、双子が欲しいかとベッドの中でまどろみながらパターソンに問う。それを聞いた後、パターソンは街のあちこちで一卵性双生児の存在に目が行くようになる。
同じ顔だけど、当然のことながら、双子は別個の存在。でも、同じ顔で、同じ服を着ていると、同じ人に見えがちだし、そう見てしまう。人間が抱きがちな、一方的な思い込みを利用しつつ、ジャームッシュは、同じ街でも全然違う人たちがいることを優しい目線で綴っていく。パターソンの行きつけのバーの亭主は、パターソンの街に関係がありそうな新聞記事を見つけては、それが客の目につくところに張っていく。それがたとえ、「“パターソンのガールズ・クラブ イギー(・ポップ)を世界一のセクシー男に”」と、亭主にとってはよくわからない、遠いトピックであっても、この街を楽しくした証ならば、きちんと壁に貼り付ける。
パターソンが運転するバスに、ある日、1901年、市民に銃を向けたイタリア国王に憤慨し、殺したアナーキスト、ガエタノ・ブレーシについて話す大学生が乗り込んでくる。この二人、ウェス・アンダーソンが2012年に発表した『ムーンライズ・キングダム』の主演のジャレッド・ギルマンとカーラ・ヘイワードの二人。音楽好きのアンニュイな少女と、ボーイスカウトの青年の12歳コンビが一年の計画を経て恋の逃避行をする物語だったが、この映画をジャームッシュは大好きで、成長した二人にオファーしたという。タイプの全く違う二人が運命的に結びつくという『ムーンライズ・キングダム』のエッセンスは、『パターソン』のパターソンと妻、ローラのカップルに受け継がれている。