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『パーマネント・バケーション』ジム・ジャームッシュという映画作家のすべてがある学生時代のデビュー作

(c)1980 Jim Jarmusch

『パーマネント・バケーション』ジム・ジャームッシュという映画作家のすべてがある学生時代のデビュー作

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上昇志向や出世主義に背を向け「小さな映画」を作り続ける



 ちなみにジャームッシュに言わせると、ニューヨーク大学の大学院映画学科の授業は「商業映画の世界に入って仕事をしていくための教育」「決まったパターンに基づいた商業的な映画を撮るための技術を訓練する場」であり、彼との相性は良くなかった。実際、『パーマネント・バケーション』をニューヨーク大学主催の学生映画祭に出品した際、「こんなのは今までで最低の作品だ」と酷評を受けたらしい(引用は『月刊イメージフォーラム』1987年1月号のインタビュー記事より)。


 そんな中、ジャームッシュにとって唯一幸運だったのは『大砂塵』(54)や『理由なき反抗』(55)、先述した『バレン』などで知られるハリウッドのアウトサイダー、ニコラス・レイ監督が同校で教鞭を取っていたこと。ジャームッシュは彼に師事して講義助手を務めていたが、残念ながらレイは『パーマネント・バケーション』の製作を開始する前日に世を去ってしまった。



『パーマネント・バケーション』(c)1980 Jim Jarmusch


 まもなく『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のブームとも言える世界的ヒットでジャームッシュは一躍時代の寵児となるが、いわゆる世間的なブレイク以降、巨匠と呼ばれる今も「ハリウッド的なもの」とは距離を置いたままだ。彼が最も嫌うのは上昇志向や出世主義。ニューヨークを拠点とし、オルタナティヴな価値観に基づいた「小さな映画」をマイペースで長年作り続けている。


 旬の人気俳優、アダム・ドライバーを主演のバス運転手役に迎え、そして『ミステリー・トレイン』(89)以来に永瀬正敏と組んだ『パターソン』(16)は、まさしく究極的に「処女作に向けて成熟」した傑作。この作品公開に際してジャームッシュが出した公式コメントが感動的だ。


 「『パターソン』は、ひっそりとした物語で、主人公たちにドラマチックな緊張らしき出来事は一切ない。物語の構造はシンプルであり、彼らの人生における7日間を追うだけだ。『パターソン』はディテールやバリエーション、日々のやりとりに内在する詩を賛美し、ダークでやたらとドラマチックな映画、あるいはアクション志向の作品に対する一種の解毒剤となることを意図している。本作品は、ただ過ぎ去っていくのを眺める映画である。例えば、忘れ去られた小さな街で機械式ゴンドラのように移動する公共バスの車窓から見える景色のように」


『パターソン』予告


 どうだろう、『パーマネント・バケーション』から本質は何も変わっていない。そういったジャームッシュの佇まいは、ドキュメンタリー映画『カーマイン・ストリート・ギター』(18/監督:ロン・マン)でも確認できる。グリニッジ・ヴィレッジで経営している、廃材を再利用したクラフトギターショップに、同店の常連だというジャームッシュがふらっと現われるのだ。ルックスも(服装の好みも含めて)若い頃そのまま! 


 彼は「日常」にとどまって人生という「旅」を続ける。リアルに「永遠の休暇」を生きている。まるでジャームッシュ本人が、ジャームッシュ映画を象徴する最大の主人公のようなのだ。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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『パーマネント・バケーション』

(c)1980 Jim Jarmusch

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