海外経験がもたらすもの
Q:撮影のダニエル・サティノフさんが捉える森の風景が圧倒的です。海外のカメラマンの視点が入ることにより、どんな効果がもたらされたのでしょうか。
福永:自分が映画作りを始めたのはアメリカなので、現場の流れや撮影のアプローチなど、海外の撮影監督に入ってもらった方がスムーズでやりやすいんです。また、今回の作品は、自然の畏怖が感じられるように撮らないと成立しない。ダニエルは構図がとても綺麗で、彼自身も自然に対して強い思いがあるのが大きかったですね。他にも、伝統的な日本家屋の撮り方などは、日本的なアプローチがあると思いますが、今回はそういう予備知識がないダニエルが撮ることによって、目の前のものをすごくフラットに捉えることが出来た。それもよかったと思います。
『山女』©YAMAONNA FILM COMMITTEE
Q:最近は「TOKYO VICE S2」(放送時期未定)や「SHŌGUN」(23 放送予定)など、これまで撮られてきた映画とは、テーマや内容、バジェットが違う配信作品を演出されています。実際に携わってみていかがですか?
福永:とても勉強になったし良い経験でした。ただ、アメリカのテレビシリーズ仕事では、監督にファイナルカット権(編集の最終権利)は無いので、ディレクターズカットを出した後に、どういう風に変えられても文句は言えない。オンエアされているものは自分が編集したものではなく、そういう意味では気持ちの割り切りも必要でした。それでも、これまで撮ってきた作品とは比べものにならない予算でしたし、いろんな機材やスタッフ、多くの俳優と制作する経験を通して、成長させてもらった部分はあります。
そうやって技術面の経験値は上がりましたが、作家として本当に必要なものとは別。僕の中では、あくまでも映画作りがメインなので、ドラマ制作で得た経験をどう作品に昇華できるかはこれからだと思います。
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監督・脚本:福永壮志
初⻑編映画『リベリアの白い血』が、15年のべルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品、ロサンゼルス映画祭で最高賞受賞、16年のインディペンデント・スピリットアワードでジョン・カサヴェテス賞に ノミネートする。⻑編二作目の『アイヌモシㇼ』は、20年のトライべッカ映画祭の国際ナラティブ・コンぺティション部門で審査員特別賞、グアナファト国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。本作『山女』が⻑編三作目となる。近年では、米ドラマシリーズ『SHŌGUN』の7話、『TOKYO VICE S2』の5話、6話の監督を務める。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『山女』
6月30日(金)ユーロスぺース、シネスイッチ銀座、
7月1日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開
配給:アニモプロデュース
©YAMAONNA FILM COMMITTEE