独特の空気を醸し出す“京都”
Q:京都を舞台にするというアイデアはどこから来たのでしょうか? 不思議ととてもしっくりきました。
山下:それでいいと思います(笑)。「こういう話をするときは京都だよね」と、最初の打合せから京都という案は出ていました。少し不思議なファンタジーの設定だったので、京都だったらそこがうまく噛み合うんじゃないかと。「京都だからいっか」みたいな(笑)。
あとはキャラクターですね。岡田くん演じる主人公のハジメは、すごく“洛中意識”があるクセのあるキャラクター。ああいうのは京都ならではかなと。地元愛がある人は他の地域にもいると思いますが、京都は独特なので、キャラクターを作る上でもプラスになったと思います。
Q:ハジメくんは「あんた宇治やないか(洛中じゃない)」と突っ込まれていました。
山下:そうそう(笑)、京都って毒があるんですよね。京都の中心(洛中)とその外(洛外)というあの感覚は、やっぱりほかの地域には無い。京都ならではですよね。
『1秒先の彼』©2023『1秒先の彼』製作委員会
Q:京都が醸す空気感もハマっていた気がします。
山下:今回、平安神宮前や鴨川は映りますが、いわゆる京都の名所はそんなに描いてなくて、普通の町家や大学の方が多かった。京都だからこれを撮っておこうみたいなことは特になかったです。それこそ天橋立のような、いろんな京都が撮れたと思いますね。
Q:確かに“京都府”としていろんな場所が出てきました。京都ロケはいかがでしたか。
山下:2ヶ月弱ぐらいいましたが、やっぱり独特ですよね。皆がイメージしている京都(京都市内)って実はすごく狭くて、それ以外(京都府)がすごく広い。天橋立や宮津や伊根も立派な京都ですが、全然空気が違う。ロケをしていくとそれを肌で感じるんです。撮影中はずっと二条(京都市内)に泊まっていたのですが、宮津パートを撮りに移動してまた二条に帰ってくる。そうすると京都市内との空気の違いがわかって、あ、戻ってきたなっていう感じがするんです。
『1秒先の彼』©2023『1秒先の彼』製作委員会
Q:山下監督は学生時代大阪に住まれていましたが、当時は京都に行ったりしましたか。
山下:ちょこちょこ行ってました。京都国際学生映画祭を手伝いに行って、映画祭スタッフの住んでいる町家で雑魚寝してました。京都の思い出というと、そういった町家でダラダラしてるイメージがあったので、そういう経験も生かしながら、映画の中に町家を出したりしました。自分の個人的な経験がちょろっと映っていますね。
Q:「京都は学生が多い」というハジメくんのセリフもありました。そういう意味でも京都はのんびりしているイメージがあります。
山下:僕は大阪芸大でしたが、大阪と言いながら奈良との県境にある田舎の方にいたんです(笑)。京都は街と学生がちゃんと共存していて、京大や吉田寮のあたりに行くと、独特の存在感を放っている学生が歩いてたりする。まだ二十歳そこそこのときに映画のチラシを撒きに吉田寮に行きましたが、あそこはめっちゃ怖かったですね(笑)。