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『1秒先の彼』山下敦弘監督 経験値が教えてくれるもの【Director’s Interview Vol.329】

『1秒先の彼』山下敦弘監督 経験値が教えてくれるもの【Director’s Interview Vol.329】

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経験値が教えてくれるもの



Q:今回は京都という空気感がベースにありましたが、世界観についてはスタッフとはどんな話をされたのでしょうか。


山下:今回はリメイクだったのでイメージがすでにある。そこに対して僕らはどうしていこうか、という感じでした。作品によってはイメージで伝えるときもあるし、「今回はあの映画のあのシーンみたいに」と具体的に浮かんじゃうときもある。でもそれを自分の中にだけしまっておくときもあれば、スタッフに「あの映画のあのシーンっぽくさぁ」と言うときもある。「何となくああいう感じだよね」って一応提出するけど、全然別な感じになってもいいんです。違うことになっても結果良くなればいいかなと。具体的にガチガチに固めていくことはあまりないですね。


Q:デビューからコンスタントに撮られている印象がありますが、ご自身の作り方やスタイルで変わってきた部分はありますか。


山下:どうなんですかね。変わってきているとは思うんですけどね。今年で47歳なんですが、20代30代の頃は周りのスタッフやキャストに追いつこうと一生懸命背伸びをしている感じでした。今は年相応になってきて、助監督も自分より若い。そうなってくると現場での自分の在り方が変わってきたというか、自然と偉そうに出来るというか(笑)。昔はタバコを吸いに行くのも気にしてたんですけど、今はすぐに吸いに行っちゃう。昔の俺を知ってる人から見たら「なんか偉そうになったな」とか「歳とったな」って感じるかもしれないですね。昔は粘っていたし、しつこかったし、体力もありましたが、最近は「もう終ろう」って自分から言い出せるようになった(笑)。それは経験値もあると思うんです。そこがいちばん変わったのかな。



『1秒先の彼』©2023『1秒先の彼』製作委員会


Q:テイクを粘らなくなったのは、経験値から完成形が見えやすくなってきたのでしょうか。


山下:それはあると思います。昔に比べて編集のことを考えられるようになったかもしれません。昔は「もっといける、もっといける!」って、それこそ6回7回8回とテイクを重ねて、しかも1カット2分とか3分フィルムを回してたんです(笑)。そうしたらやっぱり現場もピリついてくるんだけど、周りのプレッシャーに耐えるだけの体力もあったから「もう一回ください、もう一回ください」ってやってた。結局どういうことになるかというと、正解がわからなくなるんです。OKがわからなくなっちゃう。「あれ?ヤベェ、これ以上なにがいいんだかわからない!」ってなって、7回か8回目ぐらいに一旦終わるんです。でも編集のときに全テイク見ると全部OKなんですよ(笑)。微妙に違うんですけど「全部OKだこれ」ってなる。そういう経験値もあるので、どこで粘ればいいかはわかるようになった。昔は1mmでも気になると何回でもやっていたときがあったんです。そういうのは「なんだ全部OKなんじゃん」というのを知った上で、自分の中でどこで終わらせるかがわかった。今は7回も8回も撮ることはないですね。


Q:影響を受けた(好きな)映画監督や映画作品を教えてください。


山下:アキ・カウリスマキ監督の『真夜中の虹』(88)という初期の短い映画を久々に観直したんです。大学時代にすごく好きだったんですよ。男二人と女一人が出てくる話なんですが、久々に観たときに自分が疲れてたせいか「映画ってこの程度でいいんだ」って思っちゃった(笑)。本当に無駄がなくてシンプル。カット割りの妙とかあるわけでもなくて、話がシンプルに流れていって短く終わるという映画だった。久々に観てすごくやる気が出たというか、「あ、やっぱり俺この監督好きだな」って思いました。昔は憧れてそういうスタイルを真似した時期もあって、影響も受けていたのですが、やっぱり影響受けてるんだなぁと。また映画を作りたいなと思わせてくれましたね。


Q:年齢を重ねて観直すと、印象が違うことがありますよね。


山下:ありますね。最初に観たときは「キャストが全員おっさんだ」と思ってたんです。まだ自分は19、20歳だったので「じじぃばっかだなぁ」と思ってた。今観たら全員歳下なんですよ(笑)。「俺、このおじさんたちにグッと来てたんだ」と思って、キュンとくる感じは質が変わったなぁと思いましたね。今はもう自分がそこよりも歳を超えちゃったから、そういう印象の差はあるかなと。「そうだ当時はまだ若かったんだ、俺」って(笑)。




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監督:山下敦弘

1976年8月29日、愛知県出身。大阪芸術大学映像学科卒。卒業制作の『どんてん生活』(99)が内外で評判を呼び、脚本の向井康介とのコンビによる“ダメ男三部作”『ばかのハコ船』(03)、『リアリズムの宿』(04)へと繋がる。『リンダ リンダ リンダ』(05)がスマッシュヒットを飛ばし、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞等を受賞、高評価を得て新人の岡田将生を輝かせた。以降『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、ドラマ「午前3時の無法地帯」(13/共同監督・今泉力哉/ BeeTV)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)、『オーバー・フェンス』(16)とキャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立してゆく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。宮藤官九郎とは『ぼくのおじさん』(16)やテレビドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」(20/TX)での宮藤官九郎の助演、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19/NHK)での山下敦弘の出演と控えめなコラボはあったが、監督と脚本家という立場で組むのは初。公開待機作に和山やま原作、野木亜紀子脚本による『カラオケ行こ!』、ロトスコープアニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(共同監督・久野遥子)等がある。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『1秒先の彼』

7月7日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

配給:ビターズ・エンド

©2023『1秒先の彼』製作委員会

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