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『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』シリル・ルティ監督 ゴダール神話の脱構築【Director’s Interview Vol.353】

©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022

『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』シリル・ルティ監督 ゴダール神話の脱構築【Director’s Interview Vol.353】

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ジャン=リュック・ゴダールという名前には、あまりに多くのイメージがつきまとう。ヌーヴェルヴァーグの牽引者。映画の形式を刷新した革命家。つねに常識をくつがえした反逆児。人々を困惑させる気難しい隠遁者……。どれほど言葉を連ねても、『勝手にしやがれ』(60)、『気狂いピエロ』(65)、『ゴダールの映画史』(98)ほか、数々の傑作を残したこの映画作家を明確に言い表すのは難しい。


2022年9月、突然の死去のニュースもまた、ゴダール神話をより強固なものにしたといえる。そしてその死去の直前、数々の証言とアーカイブ資料によってゴダールの人生と作品をたどり直したのが、このたび公開されるドキュメンタリー映画『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家』だ。マーシャ・メリル、マリナ・ブラディ、ナタリー・バイ、ジュリー・デルピーら、ゴダールの映画に出演してきた女優たちが、ときに親密に、またときに辛辣に、彼の人となりや撮影現場での様子について証言し、ティエリー・ジュス、アラン・ベルガラといった映画批評家たちが、ゴダールの映画の革新性と変化について語り尽くす。


監督は、これまでジャン=ピエール・メルヴィルやモーリス・シュヴァリエなどのドキュメンタリーを手がけてきたシリル・ルティ。あくまでもひとりの映画作家として、気負いなくジャン=リュック・ゴダールを見つめ直す本作は、あらためてこの巨大な映画作家を知る格好の入門映画となるだろう。


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現在形でジャン=リュック・ゴダールを語った映画



Q:この映画はゴダール監督が亡くなる前に作られたそうですが、どのような経緯で企画が進んでいったのでしょうか? またゴダールの死去は、この映画にどのような影響を与えたのでしょうか?


ルティ:本作は、アルテ・フランス・シネマという文化テレビ局から依頼を受け作ったものです。実はゴダールは、晩年にアルテと契約し新しい映画を作ろうとしていました。「scénario」と呼ばれる作品で、彼が亡くなった後に完成されたと聞いています。この「scénario」を作る契約をアルテと結んでいたために、ゴダールは僕たちが彼のドキュメンタリーを撮ることをOKしてくれたのだと思います。おかげで、ゴダールにまつわる膨大な数のアーカイブ資料を扱うことが可能になりました。


それまでゴダールは、あまりにも神話の象徴として考えられていて、誰も怖がって彼の映画を撮ろうとはしていなかった。でも私は奇想天外な人生を歩んだ人の物語を語ることに興味があり、ぜひ撮ってみたいと思ったのです。映画はゴダールが亡くなる前に完成し、2022年のヴェネチア国際映画祭で初上映されました。ゴダールが亡くなったのはその一週間後、9月13日でした。彼の死去を知り、映画の内容を変えた方がいいかどうかはもちろん悩みました。いろいろと検討もしましたが、結局は何も変えないことにしました。こうしてゴダールがまた新しい作品を作るだろうという、いわば現在形で彼を語った映画になりました。



『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022


Q:映画は、ヌーヴェルヴァーグ前夜からゴダールの人生と仕事を時系列に沿って追っていく内容になっていて、1998年に完成した『ゴダールの映画史』で一区切りとなります。それ以降の作品についてはほぼ触れられていませんが、このような構成にしたのはなぜでしょうか?


ルティ:ゴダールのフィルモグラフィの中でも『映画史』は本当に信じられないような作品であり、特別な作品です。何より重要なのは、ゴダールは、『映画史』のなかで初めて自分の人生について自ら語ったということです。この作品で、彼の個人的な人生と映画の歴史とを重ね合わせたのです。


一本の映画で語ることができる時間は限られているし、すべての彼の作品を語ることはできない。何かしら選択せざるを得ないなかで、私たちはゴダールにとって特別であり重要な作品である『映画史』までの歴史を語ることにしました。とはいえ、本作のための資料はまだまだたくさんありますから、可能なら『映画史』以降も触れてみたかったなという気持ちはあります。もう少し時間があればよかったのですが。いま、Netflixでは6時間近くあるドキュメンタリー『アンディ・ウォーホール・ダイアリーズ』が6話に分けて放映されていますが、アンディ・ウォーホルの人生を描くのに6時間が必要なのですから、ゴダールの人生について語るにも、本来はもっと長い時間が必要だったかもしれません(笑)。





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