演出で意識したのは実写作品。日本映画も?
Q:本作と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(23)は、アニメのトレンドを作っているような気もします。
ロウ:たしかにハリウッドのアニメーションは新しい時代に突入しているようです。『スパイダーバース』の成功で、スタジオが独自のビジュアル、独自のストーリーに重きを置くようになれば、観客にとって以前と同じアプローチは時代遅れに感じられるかもしれません。
Q:ちょっと実写映画を思わせるカメラワークも、作品にクールさを加味しています。
ロウ:それは僕自身の好みでしょう。好きな監督はポール・トーマス・アンダーソンやアルフォンソ・キュアロンで、彼らの作品では、カメラが人間の視点で何かを追いかけたり、登場人物たちがただ歩きながら話す長回しが使われたりしていて、それらの手法を僕も取り込みました。観客を感情移入させるためです。オープニングはドゥニ・ヴィルヌーヴの『ボーダーライン』(15)を模倣しました。その他にも全体の色使いは鈴木清順の『東京流れ者』(66)、自由なカメラの動きはウォン・カーウァイの『恋する惑星』(94)など、かなり実写映画を参考にしていますよ。
Q:キャラクターデザインのこだわりは?
ロウ:後半に登場する巨大なモンスターキャラは、はっきり言ってアニメでは不可能なレベル。でも、だからこそ僕らはチャレンジして、ここでもクールな仕上がりを目指しました。日本の皆さんには、ぜひゴジラを重ねながら観てほしいですね。
『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』© 2023 PARAMOUNT PICTURES.TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES IS A TRADEMARK OF VIACOM INTERNATIONAL INC.
Q:そしてこの作品は音楽が魅力です。スコアを手がけたのが、デヴィッド・フィンチャー作品などで知られるトレント・レズナーとアッティカス・ロスのコンビ。彼らがアニメーションの仕事を引き受けるのは珍しいのでは?
ロウ:そうなんです。僕は彼らの音楽のファンで、この映画でも第一候補で推しましたが、まさかアニメ、しかも「タートルズ」の仕事を受けてくれるとは思っていませんでした。その「まさか」が起こってしまったんです(笑)。ラフに編集した映像を観てもらい、こちらの希望を出すと、彼らは早速、曲を作ってくれました。すでに使用が決まっていたヒップホップの曲に合わせ、スコアのビートを調整してくれたりして、セス(・ローゲン)と僕は「これまで聴いた音楽の中で最高にクールだ」と感動しまくったのです。
Q:こうしたアニメ作品ではメインキャラクターの声に有名なスターが起用されることが多いですが、本作のタートルズには、あえてティーンエイジャーの俳優がキャスティングされています。
ロウ:これまでのタートルズの映画では、彼らが“ティーンエイジャー”という設定にもかかわらず、同年代の俳優によって演じられることはありませんでした。大人のような低く、偉そうな声のケースもありましたよね。ティーンエイジャーならではの感情をそのまま声に乗せることで、絶対にセリフが説得力を持つし、観る人も共感できると信じて、キャスティングを決めました。そして思いのほかうまくいったという自信があります。
Q:一方でジャッキー・チェンというレジェド的な俳優も声で参加しています。
ロウ:あれだけのスターなのに、ものすごく謙虚な人で驚きました。「指示を出してくれれば、そのとおりに演じますよ」という態度で、つまり作品に対して的確な仕事をする人なのでしょう。ジャッキーを自作に迎えられたことは、夢の実現という感覚です。