『ミュータント・タートルズ：ミュータント・パニック！』ジェフ・ロウ監督　映像も音楽も「クール」を目指して【Director’s Interview Vol.354】

PAGES

2023.09.20斉藤博昭

重視するのはストーリーテリング

Q：アニメ作品ながら、劇中には実写映画『フェリスはある朝突然に』（86）のクリップが使われていたり、遊び心が満点です。

ロウ：あのシーンは、脚本の初期段階のアイデアで『ニュー・シネマ・パラダイス』（89）からインスパイアされました。タートルズが人間の世界の日常に触れるわけですが、そこでどんな情景がふさわしいか考え、公園でみんなで映画を観ている絵が浮かびました。人間にとっては普通でも、タートルズにはちょっと驚く光景で、彼らは隔絶された孤独を感じるわけです。『フェリス〜』を選んだのはティーンエイジャーの映画というシンプルな理由で、特に強い動機はありません。ただ『フェリス〜』で使った祝祭的なシーンが、僕のこの映画のクライマックスと重なり、結果的に完璧なセレクトになりました。

Q：プロデューサーのセス・ローゲンとはどのようなやり取りをしていたのですか？

ロウ：何か変更が生じた場合は、つねに彼にメールを送り、意見を聞いていました。ものすごくたくさんの会話を重ねたと思います。そして最初のラフなバージョンを観てもらったとき、セスの反応は「すばらしい」の一言でした。そこから現場で細かい修正を積み重ねたわけですが、僕が関わってから完成まで結局、3年かかりましたね。

Q：こうして2作のアニメを成功させたわけですが、そもそも映画監督を目指した理由は何だったのですか？

ロウ：じつは子供の頃は建築家になる夢を持っていましが、周囲から「夢を抱くほどの仕事ではない」と止められて……（笑）。そこで何をやりたいか改めて考え、映画を観ることと絵を描くことが好きだったので、両方を合わせたアニメーションの仕事を選んだのです。

Q：映画監督として肝に命じていることは？

ロウ：ストーリーテリングの重要性でしょうか。チャーリー・カウフマンが書いた『マルコヴィッチの穴』（99）の物語などから、芸術の目的やプロセスを刺激されます。映画というものは国境を超えて、「自分の物語だ」「家族の話だ」と共感させる力があります。それが成功すれば、観た人は少しだけ世界の一員になれた気がするはず。そこを意識して映画監督の道を邁進してきました。

Q：ということは、自身で脚本も手がけることが理想なのですか？

ロウ：そうとも限りません。今回の作品も初期段階では脚本作りに参加しませんでした。たとえばマーティン・スコセッシやスティーヴン・スピルバーグでさえも、他人の書いた脚本を演出しています。脚本を客観的に見つめることのメリットもあるはずで、自分でどう演出するか頭をフル回転することができます。ただしアーティストとしては、一から脚本に関わって自分らしい表現に挑むことが理想ではあるでしょう。

『ミュータント・タートルズ：ミュータント・パニック！』を今すぐ予約する↓

監督・脚本：ジェフ・ロウ

脚本家、監督。アニメーション界への多大なる貢献で知られている。プライムタイム・エミー賞を受賞したディズニー・チャンネルのアニメーション・シリーズ「怪奇ゾーングラビティフォールズ」(12〜16)の脚本家を2014年から2016年まで務めた後、Netflixのアニメーション・シリーズ「魔法が解けて」(18〜22)の脚本を担当した。長編映画では、アカデミー賞にノミネートされた『ミッチェル家とマシンの反乱』(21)の共同脚本および共同監督を務めた。2021年4月にNetflixで配信された同作は、その年最高の長編アニメーション作品の一つとして称賛を受け、そのユニークなビジュアルスタイルが評価された。Netflixの同年における最大のアニメーション作品となり、現在も最もストリーミングされている作品の一つである。ロウは2023年、待望のアニメーション映画『ミュータント・タートルズ：ミュータント・パニック！』で監督デビューを果たす。シリーズの豊かな歴史に敬意を払いつつ、ロウの新鮮な芸術的ビジョンと視覚的に印象的なストーリーテリング技術で、作品に輝きを与えている。

取材・文：斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。