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『ヨーロッパ新世紀』クリスティアン・ムンジウ監督 エンパシーと愛について【Director’s Interview Vol.362】

©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

『ヨーロッパ新世紀』クリスティアン・ムンジウ監督 エンパシーと愛について【Director’s Interview Vol.362】

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深い森の“熊”との対峙



Q:村の祭では村人が熊の着ぐるみを着ています。そしてクライマックスでも謎めいた熊が登場します。この熊は何を象徴しているのでしょうか。


ムンジウ: 熊は人間の本性、内なる本能や恐れ、潜在意識を表現していて、コミュニティを取り巻く深い森を意識的に描きました。人間的な部分と原始的で動物的な本能との間の葛藤が横たわっています。そして熊が象徴する動物的な本能に対比させたのが、音楽や言語や愛を持つ人間社会、コミュニティです。


Q:多言語を話し、外国人労働者やフランス人のNGO職員らと交流し、聖歌隊に所属し、家では『夢二』のテーマであり、『花様年華』でも使われた梅林茂の曲をチェロで奏でている。そんなシーラは “熊”と対照的な、音楽と言語と愛を体現した人物なわけですね。だから、内に熊を抱えた村人たちと対立するんですね。


ムンジウ:そうです。集会シーンのあとで皆がぞろぞろと森へ向かう展開も、その二者の対比を描いています。



『ヨーロッパ新世紀』©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022


Q:クライマックスの場面で、マティアスは何を撃つのでしょうか。


ムンジウ:重要なのは、マティアスがなぜシーラの家に行ったのか。そして、なぜ彼女を助けようとしたのかということです。マティアスは映画の最後に、自分が相反するふたつのものを抱えていることに気づくのです。ひとつは人間的、論理的な部分であり、もうひとつは動物的な部分、自分を突き動かす、深いところにある何か不穏な感じのするもの。それを突き詰めるため、彼は自分自身を見つめ、最終段階で自分にぶち当たるわけです。彼は、悪と思える存在を自分の中に見たかもしれない。そしてその動物的なものを最初に手懐けて、飼い慣らしたのは自分だったと気づいたのでしょう。そして、この世界の邪悪な部分、村を覆う不穏な空気がどこから来ているかを理解し、それらに気づいて対峙する。感情の赴くまま行動する、暗い森の“熊”の世界に行くのか、その背後から音楽が聞こえ、色彩があり、愛する人々とのコミュニティがある世界に行くのか。


Q:今の日本もまた、エンパシーが機能不全を起こし、混沌とした世界が広がっていますが、音楽と愛と対話のある世界を諦めることなく、希求し続けなければと思います。


ムンジウ:ぜひ公開してほしい国の一つが日本だったので、実現したことを本当に嬉しく思っています。対話が広がることを願っています。



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監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ

1968年生まれ。ルーマニア、ヤシ出身。2002年カンヌ国際映画祭監督週間でプレミア上映された監督デビュー作『Occident』がルーマニアでヒット。2007年、2作目の『4ヶ月、3週と2日』はコンペティション部門で上映され、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した。またヨーロッパ映画賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。2009年のオムニバス映画『Tales from tne Golden Age』では製作、共同監督、脚本を務めた。2012年、『汚れなき祈り』でカンヌ国際映画祭の女優賞、脚本賞をダブル受賞し、2016年は『エリザのために』で同監督賞に輝いた。長編6作目『ヨーロッパ新世紀』も同映画祭で絶賛され、現代ルーマニアを代表する監督として活躍中。



取材・文:久保玲子

編集プロダクション、映画宣伝を経て、フリーの映画ライターに。雑誌「ELLE JAPON」「T JAPAN」「Pen」等、パンフレットにインタビューや映画評を寄稿。




『ヨーロッパ新世紀』

10月14日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開

配給:活弁シネマ倶楽部/インターフィルム

©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

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