目の前にいてくれるだけで価値がある
Q:折村家と正夫の5人が揃った時は、あまりに豪華な配役でアベンジャーズのようでした。このキャスティングは最初から想定されていたのでしょうか。
石井:いや、想定していませんし、準備の時間も全然なかったので集まるとも思っていませんでした。佐藤浩市さんと池松くん、若葉くんは、これまでご一緒したこともあるので、本気で頭を下げれば何とか出てくれるかなと。でも窪田くんと松岡さんに関しては本当に縁でしたね。当初この二人の役はもっと無名の役者さんの想定だったんです。でもこの二人が来てくれて豪華布陣になりました。
Q:少しだけ登場する携帯ショップの店員役が趣里さんだったのも驚きました。そこも監督の第一希望だったのでしょうか?
石井:そうですね。趣里さんの存在感には前から興味を持っていました。
Q:折村家と正夫の5人に趣里さん一人で対峙して、負けてない感じもすごかったです。
石井:趣里さんは「みんな目がいっちゃってて怖いです…」って、現場でずっと言ってました(笑)。
Q:これだけ芸達者な皆さんに対して、実際の現場ではどのように演出されるのでしょうか。
石井:これほどのレベルの俳優さんとなると、まぁ演出することはないですね。窪田くんと松岡さんに関しては初めてですが、他の3人に関してはお互いに歴史がありますから、これまでやってきた作品を踏まえて、今回のような作品に呼ばれた理由をそれぞれが考えてきてくれる。僕は本当に少しだけ調整して、あとはただ楽しむだけでいいんです。
Q:茶の間の家族喧嘩のシーンでは、監督もずっと笑っていたそうですが、動きも含めて皆さんにお任せした感じだったのでしょうか?
石井:最初はそうですね。その後何度かテストをしてフォーメーションみたいなものを探った記憶はありますが、特に何を言った訳でもなく、勝手に面白くなっていきました。
『愛にイナズマ』©2023「愛にイナズマ」製作委員会
Q:これまで色々な“家族”を映画で描かれてきましたが、今回もまた“家族”を描き、最高に面白く仕上がりました。“家族”を映画で描くことの醍醐味や思いがあれば教えてください。
石井:ちょうど10年ぐらい前、まだ 20代だった頃に、『ぼくたちの家族』(13)という映画を撮ったのですが、当時と今の家族映画は見られ方も捉えられ方もちょっと違いますよね。自分の年齢もあるのかもしれませんが、当時は家族ってこうあるべきだという、サザエさんの磯野家のような、規範みたいなものがあった。でも、そこにたどり着けず歪んでいたとしても、それでも家族なんだと見せることが一つの価値だったような気がします。
でも今となっては、家族なんてぶっ壊れているのは当たり前だし、もはや何だっていいじゃないかという時代。だからこそ家族を描くのですが、「家族皆で手に手を取り合って仲良くやっていれば最高!」という帰結の仕方はあまりにもダサい。そんなことよりも、本当に苦しいときや悲しいときに、目の前にいてくれるだけでもいいんです。人と人との結びつきは一瞬でもいい。そういう新しい形の“人間のグループ”を、“家族”として見せる。そういうタームに入って来たのでしょうね。
Q:家族というものは、映画のネタとして尽きない部分はありますか?
石井:そうですね。うちにも5歳ぐらいの子供がいますが、そういう幼い純粋な心で感じる「傷」や「痛み」にはほぼ間違いなく家族という要素が付随してきます。だから、自分の中の根源的なエモーションを引っ張り出そうとすると、どうしたって家族も一緒に紐付いてくるんです。そういうイメージはありますね。
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監督・脚本:石井裕也
1983年生まれ。埼玉県出身。大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。商業映画デビューとなった『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞した。2013年の『舟を編む』では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。2017年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』では、第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、その後、第9回TAMA映画賞にて最優秀作品賞の受賞を皮切りに、第39回ヨコハマ映画祭、第32回高崎映画祭、第30回日刊スポーツ映画大賞など多くの映画賞で作品賞や監督賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベストテンでは、日本映画ベスト・テン第1位を獲得するなど国内の映画賞を席捲した。その他の主な監督作品に『ぼくたちの家族』(14)、『バンクーバーの朝日』(14)、『乱反射』(18)、『生きちゃった』(20)、『茜色に焼かれる』(21)、『アジアの天使』(21)。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『愛にイナズマ』
10/27(金)全国公開
配給:東京テアトル
©2023「愛にイナズマ」製作委員会