© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
『理想郷』ロドリゴ・ソロゴイェン監督 物語を語るために必要な3つのこととは【Director’s Interview Vol.368】
物語を語るための3つのこと
Q:今お話しされた「3つのこと」の“コンセプト”とは具体的にどのようなものでしたか。
最初から考えていたコンセプトは「正義」です。実際にあった話を読み、オルガとアントワーヌの物語を書き上げると、ひどく不公平な印象を受けました。私は正義が欠如していると感じる、この憤りこそ模索したいと思いました。しかし興味深いことに、正義というのは白黒はっきりしたものではなく、相対的なものなんですよね。
私たちは、観客が違う立場、それも自分では思ってもみなかった立場に置かれることに非常に関心を持っています。キャラクターを考え出す時、どうしても彼らを理解しなければなりません。まず、アントワーヌがなぜ自分のプロジェクトのために全てを賭けるのかを理解する必要があります。それからオルガは、この村に残ることは良くないと分かっていながらも、なぜ留まるのか。私たちが理解しなければならないキャラクターは、この2人だけではありません。私たちは脚本を書き進めていくうちに、敵役であるアンタ兄弟にも惹かれていきました。2人の行動を正当化するわけではありませんが、彼らの不満、憎しみ、また恐怖も理解できました。
私は、一方にとって正義と思えることが必ずしも他方にとって正義とはならないと理解し、物語の中でそのことを深く掘り下げ、観客自身に判定を下してもらおうと思ったのです。本作では、カメラと登場人物の間には隔たりがあります。つまり、全てを知り尽くしているナレーターであるかのように、中立的な視点を持たせています。観客が、中立的な立場で判断できるように、距離を置いて観察しなければなりません。
『理想郷』© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
Q:では“魅力的なものを観客に提供する”とは具体的にどのようなことと捉えていますか。
ソロゴイェン:これらの方向性に従った美学を作り上げるには何を参考にしたら良いのか考えた時に、西部劇のジャンルがパッと私の頭に浮かびました。典型的な西部劇では、往々にして中立的で客観的な位置にカメラを置いています。そこで、『理想郷』を現代の西部劇にできるのではと思いました。具体的な例を挙げると、『真昼の決闘』(52)や『許されざる者』(92)のような。
『理想郷』では、西部劇同様に自然や風景が壮大な背景の役割を果たし、厳しい環境、また文明とは正反対の未開の地を象徴するものとして機能します。西部劇では、アメリカの砂漠や草原が、本作では緑豊かなガリシア州の森と冬の厳しい寒さが舞台です。こうして私は、『理想郷』を西部劇のように撮影することに決めました。ただし、西部劇よりも好意的な視点で捉えます。また、伝統的な演出を施すことは、私の過去の諸作品とは正反対です。
Q:最後に、“同じことを繰り返さない”とは具体的にどのようなことと捉えていますか。
ソロゴイェン:スタッフを含めて私たちは、くらくらさせるような編集と、テクノ音楽を背景に常に基本的な動きをするカメラワークで作られた『El reino』(18)や、自然の存在が重要な位置を占め、広角レンズで主人公の孤独と悲惨さを表現した『おもかげ』(19)など、これまでに制作した作品を誇りに思っています。
しかし、『理想郷』は、全く異なった独特な方法で語らなければならないと考えました。自然は、休息できない場所、空間がない場所として撮影しました。32mm、40mm、50mmの素晴らしいレンズは、森の美しさを捉え続けますが、同時に、もっと閉鎖的で出口のない迷路のように映し出します。なぜなら、それこそがオルガ、アントワーヌ、そしてアンタ兄弟が抱いている感情だからです。
カメラは登場人物の動きに合わせて動き、その視点は中間的な距離から捉えた中立的なものになる。全てを客観的な立場で捉えるのです。
『理想郷』を今すぐ予約する↓
監督・脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン
1981年9月16日スペイン、マドリード生まれ。マドリード映画撮影・視聴覚学校(ECAM)で脚本を学び、2005年よりTVドラマシリーズの脚本や監督を手掛けることでキャリアをスタートさせる。長編映画監督デビューは共同監督を務めた『8citas』(08)。2011年に自らの制作会社カバージョ・フィルムズを立ち上げ、自主制作で『Stockholm』(13)を撮り、多数の映画賞を受賞するなど成功を収める。その後、『ゴッド・セイブ・アスマドリード連続老女強姦殺人事件』(16)が第31回ゴヤ賞で6部門 ノミネート。スパニッシュ・ミステリーの衝撃作として注目を浴びる。翌年、約18分の短編映画『Madre』(17)が第91回アカデミー賞短編実写映画賞にノミネート。『El reino』(18)で第33回ゴヤ賞の監督賞に輝き、今日のスペインに おける著名な映画監督の地位を確固たるものにする。大成功を収めた短編映画『Madre』を長編映画化した『おもかげ』(19)は、第76回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で女優賞を受賞。第34回ゴヤ賞で女優賞など4部門にノミネートされた。『理想郷』の後は、チチョ・イバニェス・セラドール監督が手掛けたホラー映画シリーズ「スパニッシュ・ホラー・プロジェク ト」のリメイク版で4エピソードの内のひとつである『El Doble』を制作。その他に、スペインの配信チャンネル「モビスタープラス」のドラマシリーズ「Apagon」のエピソード「El Gestor」がある。
構成:CINEMORE編集部
『理想郷』
11月3日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.