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『哀れなるものたち』撮影監督:ロビー・ライアン ヨルゴス・ランティモスの世界を作ったフィルム撮影【Director’s Interview Vol.382】
人工の光も自然光のように扱う
Q:色使いやその世界観には、ダリやキリコなどシュールレアリスムの絵画のような印象を受けました。何か参考にされたものはありますか。
ライアン:劇中に出てくるリスボンの空や、バクスター家の屋敷、屋敷の壁に描かれている風景画など、映画全体からファインアートやシュールレアリスムの世界を感じますよね。世界観に関しては、プロダクションデザインのジェームズ・プライスとショーナ・ヒースが主導となり、色々とリサーチしていました。ヒエロニムス・ボッシュの絵画について、ヨルゴスと話していたようで、ヨルゴスはボッシュの絵画を「この映画にぴったりだ」と、気に入っていたようです。この映画を見るとボッシュの絵画との共通点を誰もが感じると思いますよ。映画のストーリーがシュールなことも、その理由の一つです。ボッシュの世界もかなり普通じゃないですから(笑)。
『哀れなるものたち』©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
Q:本作の舞台の多くはセットだったそうですが、太陽光が無いスタジオで外のシーンを撮るという挑戦はいかがでしたか。これまで手掛けてきた作品は太陽光を自在に捉えていた印象もあり、これまでとは全く違うアプローチだったのではないでしょうか。
ライアン:それは非常に興味深い質問ですね。今回の撮影のアプローチは、「自然光ではない人工の光も自然光のように扱う」というものでした。よって僕らは「自然光」を自分たちで作り出したんです。室内の撮影でも、昼間のシーンであれば窓から自然な光が入ってきますよね。だからスタジオ内のセットで作った大部分は「空」なんです。常に「空」を作っているような現場でした。ただ、実際にスタジオの中で空を作ろうとすると、やはり相当な数の照明が必要になる。これはチャレンジしてみて初めて分かりました。自分としては楽しかったのですが、かなり大きな挑戦でしたね。
またバクスター家の庭のシーンは屋外で撮影しているので、そこで使われているのは本物の自然光です。このように、この映画の屋外シーンでは、本物の自然光で撮影したものと自分たちで作り出した自然光で撮影したものと両方あるので、「両方とも屋外で撮ったのか?」もしくは「こっちはスタジオで、こっちは屋外で撮ったのか?」など、皆さんどのように思われるか楽しみですね。