©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『哀れなるものたち』撮影監督:ロビー・ライアン ヨルゴス・ランティモスの世界を作ったフィルム撮影【Director’s Interview Vol.382】
ワイド、ズーム、ペッツパール、駆使したレンズ群
Q:『女王陛下のお気に入り』(18)でも使われていたような、超ワイドレンズが今回も活躍しています。しかも今回はそれに加えて、覗き穴から捉えたようなショットもあり、ズームも効果的に使われていますが、その使用の意図があれば教えてください
ライアン:元々ヨルゴスはかなりワイドな画角を好むタイプ。特に本作は、物語の性質からしてもワイドなビジュアルがぴったり。『女王陛下のお気に入り』では6mmというとてもワイドなレンズを使ったのですが、今回は昔のスチール写真にヒントを得ました。昔の写真は、当時の空気感をすごく捉えていて、僕もヨルゴスも当時のスチール写真をそのまま再現することに興味を持っていたんです。とにかくヨルゴスはワイドレンズが大好きだから、色々をテストしてかなりワイドな16mmのレンズを35mmのカメラに装着しました。そうすることによって“ビネットエフェクト”という画像の周囲が少し暗くなるような効果が生まれる。ちょっとクレイジーなシーンを撮影するときにはこのレンズを使っていました。
『哀れなるものたち』©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
また、今回はシーンを進めるのに、ズームが一役買うような撮り方をしています。ズームだけでワンカット撮影を行うことともあったため、シーンが良い形で流れていくんです。ヨルゴスの映画作りの秘密は編集にあると思っています。とにかくタイミングが絶妙で、ズームからワイドに変わる時にメリハリがついている。それが本作には効果的だったと思います。
また、“ペッツバール”という昔のレンズも使用しました。映写機用としてよく使われていたレンズをカメラで使えるように調整したもので、すごく柔らかいボケを生んでくれるんです。その効果もすごく良かったですね。特にペッツバールは結構使いました。技術的に優れたレンズというわけではないのですが、画が不思議な渦のように見える効果もあって、楽しいレンズです。とにかくすごくソフトでちょっと変わった表現になるので、美学的な視点で美しい画が撮れるレンズです。