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『インフィニティ・プール』ブランドン・クローネンバーグ監督 クローンを使って“罪と罰”を掘り下げる【Director’s Interview Vol.397】
悪夢のような編集作業
Q:めまいを誘発するようなカメラワークから、極端なクローズアップ、静謐なトラックショットなど、その撮影も印象的ですが、いつもタッグを組むカリム・ハッセンとはどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
クローネンバーグ:カリムとは撮影前に長い時間をかけて準備をします。ロケ地もキャストも決まっていない段階で、脚本を元に二人でショットリストを作り、そのリストを叩き台にして、撮影方法や必要な機材を具体的に決めていきます。
前作の『ポゼッサー』(20)では一部手持ちで撮影しましたが、今回は全く手持ちを使っていません。今回のゴールは、風光明媚なリゾートの裏に何か恐ろしいものが潜んでいる感じを出すこと。そのために不安を掻き立てられるようなカメラワークを意識しました。オープニングショットでの天地がひっくり返る感じも、その狙いの一つです。美しいロケーションがあったとして、それをただ美しいと捉える人もいれば、恐ろしさを覚える人もいる。観客を後者の気持ちにさせる表現を常に意識していました。
技術的には、被写界深度をかなり浅くしたり、キャノンのK35という古い日本のレンズも使いました。また「マカロニウエスタン」で使われていたような、アンジェニューのヴィンテージレンズも使っています。カリムの持っているレンズの中に、お気に入りがあるのですが、そのレンズはカビのようなものがついてしまっていて、そのおかげで柔らかい画が撮れるんです(笑)。それが面白くて前回も今回もそのレンズを使いました。
『インフィニティ・プール』(C) 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.
Q:麻薬で幻覚を見るシーンなど、イメージショットが細かくカッティングされる編集も随所に挿入されますが、そういったシーンは具体的にどのように撮影・編集しているのでしょうか。編集するにあたり、相当たくさんの撮影素材が必要になりますよね。
クローネンバーグ:素材がたくさんありすぎて編集は悪夢のようでした(笑)。カリムの家のリビングで実験しながら、二人で素材を撮りまくりました。ダイクロイックフィルムをレンズにつけてアングルによって色彩を変えてみたり、ミラーボックスのようなものを作って万華鏡のような見え方にしてみたり、そうやって撮っているものをその場で投影して更にそれを撮影したりと、さまざまな効果の素材を作っていきました。また、アニメーターのリー・ハードキャッスルに手伝ってもらい、ストップモーションアニメも撮りました。
そうやって撮った膨大な素材を使って、編集のジェームスと一緒に1コマレベルで様々なパターンの編集にトライしました。僕の注文があまりに細かすぎて延々と続くので、ブチ切れたジェームスに殺されるんじゃないかと思いました(笑)。本当に悪夢のような作業でしたね。
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監督/脚本:ブランドン・クローネンバーグ
1980年1月10日生まれ。カナダ・トロント出身。カナダを代表する鬼才デヴィッド・クローネンバーグを父親に持ち、ライアソン大学で映画を学んだ。2008年のトロント国際映画祭学生映画部門でプレミア上映され、HSBCフィルムメーカー賞最優秀脚本賞を受賞した短編映画『Broken Tulips(原題)』や『The Camera and Christopher Merk(原題)』(10)のほか数々のミュージック・ビデオを手掛けた後、2012年にケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演のSFスリラー映画『アンチヴァイラル』で長編映画監督デビュー。第65回カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品され大きな話題を呼んだ。8年ぶりの長編映画となる2020年公開作『ポゼッサー』はサンダンス映画祭でプレミア上映され、第33回東京国際映画祭でも上映が行われるなど数々の映画祭で絶賛された。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『インフィニティ・プール』
新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:トランスフォー マー
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