コナン・ドイルの「失われた世界(ロスト・ワールド)」
名探偵シャーロック・ホームズの生みの親としてのイメージが強いドイルだが、実はホームズ以外にも人気キャラクターがいる。ジョージ・チャレンジャー教授である。
教授、というとホームズにおいてはモリアーティ教授だが、チャレンジャー教授は狡猾な犯罪界のナポレオンなどではなく、動物学や古生物学を専門とする科学者である。ホームズが部屋の中で椅子に座って思索や推理をする物静かな人物であるのに対し(まあ一概には言えないけど)、チャレンジャー教授はどこへでも探検に出かけ、乱暴で独善家、他人を威圧するタイプ(ほとんどマッドサイエンティストと言っていいだろう)。ホームズがミステリー、チャレンジャーがSFといった具合にそれぞれドイル作品を代表している。
そのチャレンジャー教授が、文明と隔てられ恐竜たちが生き延びている秘境を探検するのが「 失われた世界(ロスト・ワールド)」という作品。そう、『ジュラシック・パーク』の続編のタイトルはここから来ているのだ。恐竜が生き残る島を探検するというお馴染みのストーリーの原点が、シャーロック・ホームズの作者によって書かれていたとは、初めて知ったときは意外だった。
「失われた世界」では、若き新聞記者マローンと彼が取材するチャレンジャー教授が仲間たちとともにアマゾン奥地を探検し、古代生物たちが生き残る台地を発見する。探検隊は生きた恐竜を目の当たりにし、凶暴な肉食恐竜に追いかけられたり、先住民と猿人との戦いに巻き込まれたりしながらも台地を脱出する。恐竜が生き残る世界の存在を学会で発表するも誰にも信じてもらえないチャレンジャー教授は、こっそり運んできた大きな箱を開いて見せる。中から現れたのは翼竜であり、ロンドンの街は大騒ぎに。翼竜は故郷の方向へ飛び去ってしまうが、「失われた世界」の存在は証明されるのだった。
『ジュラシック・パーク』の一連の映画シリーズやマイケル・クライトンによる原作はこのドイルによる「失われた世界」から影響を受けており、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』も当初クライマックスの敵はプテラノドンの予定で、ヘリコプターで島から脱出した主人公たちが襲われるはずだった(前作ラストの別バージョンのようだ)。ラストシーンで画面いっぱいに大きな翼を広げて咆哮する翼竜の姿は、その名残であり、ドイルの「失われた世界」へのリスペクトなのである。