オリジナル版との違い
Q:脚本は具体的にどのように改定されたのでしょうか
黒沢:オリジナルと比べると二つの要素が違っています。まず一つは、オリジナルはVシネマで何たってヤクザ映画なので、フランスに置き換えるとマフィア映画になるはずですが、それをあえて変えたことです。オリジナルは、いわゆるヤクザ映画とはだいぶ違う感じで“外して”いました。例えば、ヤクザの組長を柳ユーレイ(柳憂怜)さんに演じてもらっているのですが、その時点で相当変化球なわけですよね。その微妙な感じを狙っていたのですが、フランスでマフィアとして描きつつも、微妙にマフィアの感じを外していくって、それは多分出来ないだろうなと。そこの“外し方”って日本人の僕らだと分からないんです。やったとしても中途半端なマフィアにしかならない。そこで、ヤクザが持っている暴力的なものとは違う、もう少しちゃんと利潤を追求している会社みたいなもの、「財団」にしてみました。そこが一つ目の大きな違いですね。
もう一つは、主人公をフランスにいる日本人女性にして職業も変えたことです。これはやっていて面白かったですね。オリジナルでは男二人が復讐していく話だったのですが、これが男女のペアになった。そうすると、オリジナルでは全然気にもしなかったのですが、自分の娘が殺されたという点から、男側には「妻がいたであろう」、女側には「夫がいるはずだ」という感覚がだんだん大きくなっていった。裏組織のようなところから始まったものが、自分の妻、あるいは自分の夫との関係に行き着くようになった。そこはオリジナルには全く無かった要素で、書いているうちに自然とそうなっていったものです。
『蛇の道』© 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA
Q:オリジナルからの取捨選択で迷ったものなどはありましたか。98年版に出てきたコメットさんや生徒の女の子が出てこないのは意外でした。
黒沢:コメットさんは躊躇なく外しました。あれは高橋洋のアイデアでしたが、ヤクザ組織が追いかけてくるときに、「誰が追いかけてくるんだ?」「コメットさんだ」という、そこにはものすごい“外し”があったわけです(笑)。ただ、これをフランスでどうやるかは全く思いつかない。ごく初期には、フランスでコメットさんに相当するものを考えたりもしましたが、これはどうやっても無理だなと。
Q:オリジナル版の新島(哀川翔)の数学塾のようなところで、女の子の生徒が出てくるのが印象的でした。あの女の子に相当するのが、今作での西島秀俊さんになるということでしょうか。
黒沢:相当するかどうかは正直よくわかりませんが、オリジナルでの数学塾みたいな設定は心療内科に変更しました。そこの心療内科で小夜子がアルベールと知り合うという、分かりやすく手堅い設定にしたんです。心療内科の患者という形で西島くんが出てくるのですが、その顛末はオリジナルには全く無い要素として入れました。西島くんが出演してくれるかどうかはスケジュールも含めて一か八かでしたが、たまたまスケジュールがあって1日だけ出演してもらうことが出来ました。
Q:寝袋を引きずるカットでは今回は悲鳴が上がります。その辺の微妙なアレンジも脚本段階で考案されたのでしょうか。
黒沢:寝袋を引きずるというのは脚本段階からありましたが、オリジナル版の撮影では、あまり深い考えもなく寝袋の中に毛布を入れて引きずっただけでした。でも今回は本当に人間を入れてみようとなった。果たして引きずれるのかと思いましたが、すごく無理をすれば何とか出来た。柴咲さんも出来なくはないということだったので、中に人間を入れて実際に引きずったんです。そうすると、中の人間は当然動くし痛がる。そこで「オウッ!」という声も入れることになったわけです。
オリジナル版は毛布しか入れてなかったので、変なものを引きずっているだけの感じもあり何だか儀式めいていた。人間を入れるのか入れないのか、どっちがいいのか、こうやって実際に撮影することによって分かってくることもある。そこは映画撮影の面白いところですね。