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『流麻溝十五号』ゼロ・チョウ監督 台湾の暗い歴史から学べること【Director’s Interview Vol.423】

© thuànn Taiwan Film Corporation

『流麻溝十五号』ゼロ・チョウ監督 台湾の暗い歴史から学べること【Director’s Interview Vol.423】

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「和解を実現し、自由を手に入れ、平和を叶える」



Q:白色テロ時代には激しい拷問や処刑などが行われていましたが、本作には残虐な描写がほとんどありません。意図的な判断だと思いますが、こうしたアプローチを選んだ理由をお聞かせください。


ゼロ:白色テロを題材に映画を撮ると決まったとき、実は友人たちから「あまり観たくない」と言われたんです。「つらい、疲れる、プレッシャーを感じる」と。当時の残酷な歴史はよく知られていますが、誰もが自分の生活に忙しい中、わざわざ重い映画を見る気にはならないんですよね。そこで私は、「心配しないでほしい、私の映画では最も心温まる作品にするから」と約束しました。


私たちが大切にしたのは、映画を通じて特定の人物を攻撃したり、人びとの怒りや憎悪を煽ったりしないこと。むしろ、人間がいかにお互いを理解して和解できるのか、正義とは何か、そして正義の価値とは何かを探求したいと考えました。正義とは、決して暴力によって達成できるものではありません。むしろ互いに支え合うことで、はじめて共通の価値観や認識が形づくられるのです。だからこそ、暴力を描くのではなく心温まる映画を目指しました。



『流麻溝十五号』© thuànn Taiwan Film Corporation


Q:よく知られた現代史を映画化するにあたり、台湾ではどんな反応がありましたか。フィクションで現代史を扱うと、歴史的事実にもかかわらず「これはデタラメだ」などと前提ごと否定する声が出てくることがあります。


ゼロ:映画の公開直前にはさまざまな意見を聞きました。「対立や憎悪、恨みを煽る映画だ」とか「特定の政党のプロパガンダだ」とか……。映画を観ていただく前から不公平な攻撃を受けていると感じましたが、そういった事態は前もって予測していたこと。だからこそ、周到にリサーチを重ね、資料に基づいて歴史をなるべく再現しようと努めてきました。しかし、それでも政治的立場を理由に、私たちの努力や歴史考証さえ聞いてもらえないことがあります。台湾の南投県では、この作品を上映していた映画館のひとつに対し、市民の一部から「我々と政治的立場が違う人間が作った映画を上映するな、すぐに中止しろ」と抗議があり、やむなく上映を中止することになりました。そういう意味では、私よりも製作総指揮のヤオさんのほうがずっと大変な思いをしたのだと思います。


この映画を通して、歴史上の広く知られていない一面に光を当てたいと考えていました。しかし人間に先入観や偏見がある以上、それは簡単なことではありません。だからこそ、私は物語を懸命に語らねばならないと考えています。人びとの対立を煽ることなく、人間性を探求する物語を語るべきなのだと。歴史を知ることで和解を実現し、自由を手に入れ、平和を叶える……そのことが私たち人間にとっては最も大切だからです。





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