演技を通して見えてくる、“演出”の面白さ
Q:少し話がそれますが、沖田修一監督が自主制作で作った『おーい!どんちゃん』(21)は、ワークショップから始まった映画だそうです。沖田監督は演出されている時にずっと笑っているそうですが、「監督は見るプロ」とは、まさにこういうことですね。
早川:私も『おーい!どんちゃん』は観に行きました。沖田さんって収録素材に本人の笑い声が入っちゃってるという伝説があったのですが、『おーい!どんちゃん』では実際に入っていましたね(笑)。ある役者さんが仰っていましたが、監督がゲラゲラ笑って見てくれているのがいちばん嬉しいそうです。本当にその通りだなと思います。沖田さんの才能ですよね。
Q:早川監督の『PLAN 75』は倍賞千恵子さんが主演でしたが、実際にどのように演出されたのでしょうか。
早川:倍賞さんは演出いらずでした(笑)。ほぼ一回でOKなのですが、「もう少しこうして欲しいです」と伝えると、それがすぐに出来る方でした。倍賞さんのシーンを撮っているときは、ただただ感嘆して「すごい…!」という感じでしたね。
撮影中は、役者さんの思うようにやってもらった方が、私がイメージしていたものよりずっと良いことがよくありました。だから監督の力で変えるよりも、その役者さんとコラボレーションしながらやる方が面白い。そこで「演出ってここが面白いんだ」と初めて気づきました。それまでは、監督が全てを把握し、それを伝えなければならないと誤解していたのですが、役者の方がわかっている場合もあるし、二人でやっていく中で見えてくるものもある。「一人じゃないんだ」と気づいたことで、不安が消えた感じもしました。それは各部署のスタッフとも同じでした。色々な人の力を借りるとすごくいいものが出来る。それが映画を作ってみて分かったことでした。
役者さんとのワークショップでは、それを伝えるようにしています。監督が何でも分かっているわけではないので、「皆さんの力を貸して欲しい」「思ったことを自由に言って欲しい」と伝えると、それぞれが元々持っているクリエイティビティやイマジネーションを開きやすくなる。そうすると、やっている方も楽しそうだし、私も楽しい。終わった後に皆が「楽しかったー!」と明るい顔になっていることが、すごく嬉しいですね。
映画監督:早川千絵
オムニバス映画『⼗年Ten Years Japan』(18)の⼀編を監督。その短編から物語を再構築した⻑編第⼀作『PLAN 75』(22)は第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部⾨に正式出品され、新⼈監督に贈られるカメラドールの特別表彰を受けた。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
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