ラブストーリーを成立させるシネスコ
Q:カメラマンの近藤哲也さんは初タッグかと思いますが、スタッフィングの経緯を教えてください。
中川:僕からの指名スタッフは録音部と演出部だけで、それ以外のスタッフィングは今回の制作会社であるスプーンの佐野大プロデューサーにお願いしました。カメラマンの方は何人か候補を挙げていただき、その中であえて硬派な画調をもっているコンテツ(近藤哲也)さんにお願いしようと思いました。
流星さん演じる漣のキャラクターは、あまり現実的でもいけないし現実から浮きすぎていてもダメ。そこのラインがすごく難しい。今回は主として女性が見る作品として企画されていますが、あえてコンテツさんが撮る男っぽい画にした方が、流星さんがうまく映えるんじゃないかなと。コンテツさんはバキッとした画を作る人なので、漣がやっている行為が浮きすぎず、いい意味でリアリティを超えてくるだろうと思ったんです。
また、コンテツさんには「箱庭みたいな世界にしてください」と伝えました。美術大学自体が持っている非日常性や、日常の中にある究極の非日常とも言える“恋愛”をしっかり作り込むためには、いい意味での非現実的な感じの箱庭っぽさが欲しい。それを作れるカメラマンとして、今回はコンテツさんにお願いしました。
ABEMAオリジナルドラマ『わかっていても the shapes of love』© AbemaTV, Inc. All Rights Reserved
Q:今回はシネスコで撮られていますが、その意図があれば教えて下さい。また、あえて日常性を抑えた理由もお聞かせください。
中川:映画に出てくる恋愛への憧れみたいなものは、多くの人が持っている一方で誰もが出来ることではない。特に今は昔よりも恋愛している率が減っているそうですし、恋愛することが困難な時代になっているようにも見えます。昔に比べると恋愛の深さや激しさも薄くなっていて、何だか漂白されたような世の中になっている気がします。それでも人間が本能として求めている“恋愛”を掘り起こすためには、日常のお茶の間と地続きのものを作ってしまうと、共感は呼べるかもしれないけれど、そこに踏み込むような物語にはなり得ない。だからある種の激しさが必要だと思ったんです。
ラブストーリーの場合、画角に関しては“カットバック”と“距離”の二つしかないと思っています。これまでの作品ではあまりシネスコは使わなかったのですが、小さな物語にしないためにもラブストーリーこそシネスコの方が良いのではないかと。でもシネスコってすごく難しいんです。カットバックすると、人物の横の余白が無駄になってしまうので、安易にやっているとそれがすぐにバレてしまう。今回は目のカットバックが重要だと思っていたので、シネスコの画面いっぱいに目を入れたかった。目のドアップは映画館でやると気持ち悪くなるかもしれませんが、配信であれば魅力になりうるのかなと。また、離れていた2人が近づいていく表現としても、シネスコをうまく使えそうだと思いました。
Q:シネスコでの動線設計やアングルなどに関してはいかがでしたか。
中川:戦争映画のようなスペクタクルであればシネスコはすごくいいですが、今回はアパートや大学を出たり入ったりするようなラブストーリー。画を余らせない動線設計が難しかったですね。そんな中、今回のロケ地は全面的に使えるところが多くてとてもありがたかったです。シネスコの場合は写したくないものがどんどん映って来ちゃうので、制限があるとすごく難しい。今回は美大をまるまる貸していただけて、美術も磯見俊裕さんを中心とした素晴らしいチームが担当してくださった。どこにカメラを向けても撮影できる環境があったからこそ成立できたと思います。