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『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』福田雄一監督 なぜ福田作品は役者ファーストなのか【Director’s Interview Vol.461】

『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』福田雄一監督 なぜ福田作品は役者ファーストなのか【Director’s Interview Vol.461】

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役者ファーストの理由とは



Q:今回、ドラマと映画で何か違いを意識したところはありますか。


福田:実は、僕が仕事として一番好きなのはTVドラマなんです。テレビってコンプライアンスもあるし、確実に尺が決まっていて制約がある。そこをいかに壊していくか。本来はテレビでやっちゃいけないことを、果敢にやっていく作業が大好き。逆に映画って割と自由で、内容に関してもそんなにうるさいことは言われない。「何でもやっていいですよ」と言われるよりも「ここまではやっちゃダメですよ」と言われた方が、「やってやるぞ!」って思うんです。制約がある分それが面白いし、“枠を超える”ことが好きなんです。


以前、堂本剛くん主演の「33分探偵」(08)というドラマをやったのですが、番組自体は45分の枠で実尺が33分。ドラマの冒頭5分ぐらいで解決してしまう事件を、堂本剛くんがなんだかんだ理屈をこねて、33分持たせるドラマでした。“33分持たせる”というその発想自体が、番組の実尺を提示している。そういうテレビの遊び方が好きなんです。


だから映画で「何でもやっていいよ」と言われると、本当にもうギリギリまでいきたくなるんです。今回もパロディシーンがいっぱいありますが、「これ、やっていいの?」と思ってしまうようなことまでやらせてもらいました。もちろんちゃんと許可をいただいてやっていますが、それぐらいギリギリを攻めないと、映画というメディアではなかなか驚きには繋がらない。だから勝負の仕方としては映画の方がかなり高度ではありますよね。



『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』©中村光/講談社 ©2024 映画「聖☆おにいさん」製作委員会


Q:佐藤二朗さんが延々話し続けるシーンもかなり攻めていて爆笑しました。

 

福田:あれは、やって欲しいことを二朗さんに何となく伝えておいて、松山くんと染谷くんには「二朗さんが台本に無いことをいろいろ言ってくるけど、それなりの答えをしてくれればいいです」と伝え、それ以外は何も言わなかったんです。リハーサルなしのぶっつけ本番で回し始めたのですが、何か面白いことが起きるんじゃないかと待ち続けた挙句、最終的に9分ノーカットで採用しました。かなり待ち続けたので結構限界でしたが、あんなに面白いことが起きるとは…(笑)。松山くんなんて最後は青森弁になってましたから(笑)。染谷くんも手を後ろに回して完全に“素”になっていたし、もう客観の傍観者ですよね(笑)。


「台本に無いことを言ってくるので、何となく対応してください」なんて普通は言われないと思うんです。でも皆さん戸惑うこともなく逆にワクワクした感じでやってもらえています。


Q:その他のシーンもアドリブ優先で撮られているのでしょうか。


福田:時と場合によります。僕の監督デビュー作は「THE3名様」(05)というドラマですが、あの頃は「てにをは」を間違っただけでもNGにしていました。観た人からは皆「台本あるんですか?」と言われるくらいに3人が自然な感じで喋るので、全部アドリブだろうと言われた時期がありました。でも1個たりともアドリブは許していません。塚本高史くんが「え?その程度の間違えでやり直すの?」と言ったくらい、あの頃の作り方は厳しかったと思います。それが変わったのは、二朗さんやムロくんとの出会いが大きかった。僕が考えている以上のものを出してくれる役者さんがいるんだなと、その出会いが僕を変えていきました。


僕がこの仕事を始めることが出来たきっかけは、ココリコがやっていた「ココリコミラクルタイプ」(01〜07 TV)というバラエティ番組で、役者さんでコントをするという経験からです。松下由樹さんや八嶋智人さんなどが出演されていて、役者さんの笑いの作り方ってもう絶妙だなと思ったんです。それまで僕は、極楽とんぼやココリコの座付き作家をずっとやっていました。芸人さんは基本的に言葉を笑いにしていくのですが、役者さんは表情やセリフの表現で笑いにしていく。それは全く想像してなかったことでした。そこが役者さんをリスペクトして、役者ファーストで物を作っている最大の理由ですね。


Q:福田監督の世界は昔から綿々と繋がっていて、その振り切り具合はどんどん広がっている印象があったのですが、ご自身の中ではそうやって変わって来ている部分もあるのですね。


福田:昔は「勇者ヨシヒコ」(11〜16)や「アオイホノオ」(14)など、ずっと深夜ドラマをやらせてもらっていたのですが、最近はありがたいことにバジェットの大きな映画もやらせていただけるようになった。ただ、バジェットの大きなものは、当然のことながらヒットさせなきゃいけない。「やっぱり笑いだけではダメだよな」というのが自分の中にあって、前半に笑いがあっても後半ではちゃんと感動がついてこなきゃいけない。映画は最後に「うわーっ」って感動しなきゃいけないと思っているし、あれだけ振り切った『銀魂』(17)という作品でも、最後にはお客さんがちゃんと感動できるようなものになっている。でも自分の中では、どこかで「ギャグ一辺倒のものをやりたい!」という希望があったんです。


それは「勇者ヨシヒコ」のときには絶対的に出来ていたもの。「勇者ヨシヒコ」には何の感動もなくて、あるのは笑いだけですから(笑)。あの頃自由にやれていた「笑いだけのものをやりてぇなぁ」という気持ちはずっとあったのですが、モノが大きくなればなるほど出来ないという状況に陥ってしまった。それが今回『聖☆おにいさん』を映画化ということになったので、これは久々にチャンスだなと。原作がこれだけのギャグマンガですし、この辺でもう一度勝負してみたい。今回の映画に関しては全く感動が無いですから(笑)。それを今回やらせていただけたのは、本当に幸せでしたね。



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監督/脚本:福田雄一



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』

12月20日(金)全国ロードショー

配給:東宝

©中村光/講談社 ©2024 映画「聖☆おにいさん」製作委員会

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