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『私にふさわしいホテル』堤幸彦監督 フィックス撮影の魅力とは【Director’s Interview Vol.462】

『私にふさわしいホテル』堤幸彦監督 フィックス撮影の魅力とは【Director’s Interview Vol.462】

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なぜ昭和だったのか



Q:「(文学賞発表の)待ち会」で囲む黒電話をきっかけに、設定が昭和になっていったそうですが、昭和へのこだわりがあれば教えてください。


堤:設定を昭和にすることは相当抵抗されましたね(笑)。でも、山の上ホテル、小説家、文豪と来たら、まず名前の書いてある原稿用紙がなくちゃいかんだろと。ということは手書きになる。ということは万年筆だ。売れっ子作家であればオリジナルオーダーした万年筆があるだろうし、自分オリジナルのインクもあるかもしれない。そうなってくると、黒電話での「待ち会」や、昔風情の銀座のクラブや文壇バーも周りにあるだろう。そうやって全てが繋がってくるんです。これは令和や平成後期の設定ではなかなかイメージしづらいなと。


また、昭和の衣装プランもすぐに浮かんできたので、スタイリストのはしりと言われている中村のんさんにお願いして、色々と集めてもらいました。その衣装がまた良いんですよ。加代子を演じたのんさんにもすごく似合う。今回はスタッフ、キャスト共に幸福なセッションが出来ましたね。



『私にふさわしいホテル』 (C)2012柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会


Q:実際に“昭和を撮る”ことに関してはいかがでしたか。


堤:かつて手がけた『20世紀少年』(08-09)でも僕が子供の頃の話がありましたが、自転車一つとっても今と全く違うんですよね。昔のデスクには書類がブワーッと積んでありましたが、今やペーパーレス(笑)。そういうものを一つ一つ思い出しながら作っていく作業は楽しかったです。まぁでも、どうしてもお金が掛かってくる。そんな中で、ここ山の上ホテルでリアルに撮影できたことは、今回の最大の成果ですね。ロケ場所、衣装などの小道具、そしてキャスティングまで、本当に幸福なパッケージが出来たと思います。


今回は小さな世界でしたが、昭和の文壇の話は想像すればするほど面白かった。今後あと何作映画を撮れるか分かりませんが、昭和の持つ罪深さみたいなものも、いつか題材にしたいですね。


Q:のんさん演じる加代子は強烈なキャラクターですが、どのように演出されたのでしょうか。


堤:今回は、演劇を作っているような感じでした。例えば、加代子が東十条の部屋に入り大騒ぎするシーンなどは、カットを一つずつ重ねていくというよりも、一度全て芝居を作らせてもらいそこから一連で撮りました。その中で「ここはもうちょっと温度を上げていこう」「ここはもうちょっと下げよう」と高低差をつけながら、色々とアイデアを出していきました。


普段はシーンのどこを強調すべきか事前に計算してから撮影するのですが、今回は実際にやってみないと分からない部分があった。特に今回は「こういうことすると、もっと笑えそうだね」と現場での追加や提案がたくさんあったのですが、それは力がある俳優にしかお願いできないこと。今回のお三方(のん、田中圭、滝藤賢一)に関しては、その辺はバッチリでしたね。


僕のキャリアはバラエティ番組のコントから始まり、バラエティっぽいドラマ作品も多かったのですが、今回はその経験がすごく活きたと思います。加代子のリアクションやズッコケ方、品のない飯の食べ方とか(笑)、コントをやっていたおかげで助かった部分がありました。





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