文豪に愛された「山の上ホテル」に自腹で宿泊し、いつかこのホテルにふさわしい作家になりたいと夢見る加代子(のん)は、己の実力と奇想天外な作戦で、権威としがらみだらけの文学界をのし上がっていくーー。
柚木麻子の同名小説を原作に、巨匠・堤幸彦監督が映画化した『私にふさわしいホテル』は、実際の「山の上ホテル」で撮影を敢行。昭和の文壇を舞台に暴れ回る新人作家を魅力的に描いていく。堤監督はいかにして本作を作り上げたのか。映画の撮影場所と同じ「山の上ホテル」にて話を伺った。
『私にふさわしいホテル』あらすじ
新人賞を受賞したにも関わらず、未だ単行本も出ない不遇な新人作家・相田大樹こと中島加代子(のん)。その原因は、大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一)の酷評だった。文豪に愛された「山の上ホテル」に自腹で宿泊し、いつかこのホテルにふさわしい作家になりたいと夢見る加代子は、大学時代の先輩で大手出版社の編集者・遠藤道雄(田中圭)の力を借り、己の実力と奇想天外な作戦で、権威としがらみだらけの文学界をのし上がっていく。
Index
キャラクターで創作物を想像させる
Q:原作を映画化するにあたり、面白くなりそうだと感じた部分はありましたか。
堤:やはり加代子の設定ですね。こういう人は70年代にはたくさんいたと思いますが、現代においてはなかなかのキャラクターだなと。売れるために頭を下げつつも、その実、目は全く泣いていない。とても強くてほどけない芯みたいなものを持っている。そこがとにかく面白かったし、難しいとも思いました。果たして僕で映画化出来るのかなと。変な人は今までもいっぱい描いてきたのですが、見えない部分で意志が固く、本気で厭世観がある人ってあまり描いたことがなかったですから。
『私にふさわしいホテル』 (C)2012柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会
Q:物作りをする人に共通するものを感じたそうですが、どのような部分に共感されたのでしょうか。
堤:加代子が書いている小説の文面は画面上ではほとんど見せていません。通常はモノローグを挿れるなどして、文面の片鱗を感じさせたりするものですが、今回はそれも一切せず、文学賞を獲る人なのだという結論しか見せていない。小説のタイトルだけを見てその人が書いているものを想像させることは、映画監督で言うと予告編だけを観てその監督の作風をイメージするようなもの、そこが重要な共通点ですかね。強いて言えば “キャラクターで創作物が見える”というところでしょうか。僕はどの作品も違う心持ちで撮っていますが、結局は同じように見られているかもしれない。「どうせまた小ネタを挟んでくるだろう」と思われているのかなと(笑)。そこが自分の最大の特徴でありジレンマ、抜け出したい点でもあるわけです。