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『エマニュエル』オードレイ・ディヴァン監督 言葉はイメージよりもエロティックになりうる【Director’s Interview Vol.463】

© 2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS

『エマニュエル』オードレイ・ディヴァン監督 言葉はイメージよりもエロティックになりうる【Director’s Interview Vol.463】

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資本主義社会の欲望を、香港で描く



Q:本作は世界的な高級ホテルを舞台に、人間の欲望が資本主義のシステムによって無意識に制御されていることを示唆しています。資本主義と欲望の関係を描くうえで、なぜ原作のタイ・バンコクから香港へと都市を変更したのでしょうか?


ディヴァン:原作小説と1974年の映画版には、どちらも植民地主義という明確な問題が入っています。そこで、共同脚本のレベッカ・ズロトヴスキとは「植民地主義は本当に消滅したのか?」と議論しました。高級ホテルのなかで、植民地主義的なシステムはまだ生き延びているのではないかと。香港は国際的な都市でありながら、植民地主義の残骸が残っている場所だと思います。あらゆる国籍の人々が集まる“小世界”としてのホテルにも、組織のトップにいるのはイギリス人やフランス人で、現場に出るほど地元の人々が増えていく。植民地的な階層社会が明らかに象徴されていると思います。


Q:先ほど名前が出たウォン・カーウァイの影響はどれくらいありましたか。エマニュエルがホテルを出て、香港の雑踏を歩くシーンでは『恋する惑星』(94)を思い出しました。


ディヴァン:おっしゃる通り、そのシーンは『恋する惑星』です。無意識の部分が大きいと思いますが、確実に影響は受けていますね。今でもフランスでは、「最も影響を受けたエロス映画は?」という質問があると、答えに『花様年華』(00)が必ず入るんです。主人公の男女がほとんど触れ合わないにもかかわらず、エロティシズムが表現された興味深い作品でした。香港でエロティックな映画を撮る以上、ウォン・カーウァイの影響からは逃れられません。それならば、反抗するよりも潔く受け入れたほうがいいですよね。



『エマニュエル』© 2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS


Q:映画の前半でホテルをとらえた映像は、非常に美しく、整然としていて、広告やテレビCMのようでさえあります。一方、その外部である香港の街には雑然とした雰囲気がありますが、そうした映像的・空間的展開はどのように構築されましたか。


ディヴァン:まさに、コマーシャル的な幸福や快楽のイメージを映画に取り入れたうえで、その美しさがしおれていくような構成にしています。視点が変わると、イメージの見え方も変化していき、やがてそれが街の雑踏につながる。整然としていたものが壊れていくことは、すなわち自由になっていくことだという見せ方です。撮影方法も同じで、前半はカメラを固定したショットが多かったのが、やがて手持ちカメラになり、どんどん即興的でゆるやかなカメラワークへと変化していきます。


Q:「自由」という言葉を使われたように、この作品には「資本主義的なものから人間の欲望はいかに自由になれるのか?」というテーマがあり、ラストには独特の開放感があります。今、この時代に「欲望」そのものを考え直すこともコンセプトだったのでしょうか。


ディヴァン:私が本当に問いたかったのは、「現代のエマニュエルが求めるものは何か、それはどのような場面で手に入るのか」ということでした。この映画で欲望を描くことができたのは、「人間には他者が必要だ」という答えに行き着いたから。資本主義社会が破壊した最も大きなものは他者との関係です。けれども他者を想像し、他者とつながることなくして、快楽も欲望もありえないと私は思います。他者がいなければ、そこにあるのはからっぽで空虚なエロスですから。




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監督:オードレイ・ディヴァン

1980年、フランス生まれ。パリ政治学院でジャーナリズムと政治学を学んだ後、ファッション誌やカルチャー誌の記者を経て、2008年から脚本家として活躍。セドリック・ヒメネス監督の『フレンチ・コネクション -史上最強の麻薬戦争-』(14・劇場未公開)、『ナチス第三の男』(17)、『バック・ノール』(20)などの脚本を手掛ける。2019年に『Mais vous êtes fous(原題)』で監督デビューを果たす。そして、ノーベル文学賞を受賞したフランスを代表する作家アニー・エルノーの小説「事件」を自ら脚色した監督第2作『あのこと』(21)で、ベネチア国際映画祭金獅子賞、ルミエール賞作品賞を受賞し、英国アカデミー賞監督賞、セザール賞監督賞・脚色賞、ルミエール賞監督賞、ヨーロッパ映画賞など数々の栄誉ある賞にノミネートされ、未来の映画界を担う存在として広く認められる。



取材・文:稲垣貴俊

ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。




『エマニュエル』

1月10日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

配給:ギャガ

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