※向かって左よりIMAGICAエンタテインメントメディアサービス新井陽子氏、同:阿部悦明氏
『市川雷蔵映画祭 刹那のきらめき』レストア担当:新井陽子 × グレーディング担当:阿部悦明 50年以上前のフィルムは如何にして甦ったのか【CINEMORE ACADEMY Vol.36】
どこまで消すのか?
Q:フィルムの傷は膨大にありそうですが、具体的にどのように消しているのでしょうか。
新井:今はフィルムレストア用のソフトウェアがあって、フィルムの揺れを補正する機能や明るさの明滅を補正する機能、ゴミや傷を検知して修正する機能などがあり、それらをオートで使うことが出来ます。ただオート機能の失敗は結構あって、演出されている揺れを止めてしまったり、ゴミじゃないものをゴミだと認識してしまうこともある。オート機能を使いつつ目視でのチェックも並行して行なっています。
Q:どこまで消してどこまで残すのかといった、修正度合いは最初に決められるのでしょうか。
新井:そうですね。作業するチームと映画会社の方々含めて全員で話し合って決めることが多いです。
阿部:基本的には傷は全く無い方がいいと思っています。傷が無くなるとスクリーン上にチラつくようなストレスが一切なくなり、物語の中に入り込んでいける。昔のフィルムは縦キズが入っているようなイメージがありますが、それらは最初に上映されたときにはなかったものです。そういう最初の状態がリマスターの目標になるべきだと考えています。
新井:リマスター版は古いと感じずに観てほしい。そういう観点で品質を考えると、傷は一切なくすことが今の主流になっています。
※向かって左よりIMAGICAエンタテインメントメディアサービス阿部悦明氏、同:新井陽子氏
阿部:監督やカメラマンから、撮影当時に誤って写り込んでしまった、いわゆる“バレもの”なども消したいとご要望をいただくことがあります。一方で国立映画アーカイブさんなどは、昔の形のまま残したいという考え方なので、バレものがあったとしても消すことはありません。どちらが正しいということはなく、リマスターの“新しくする”ということに対しての考え方の違いだと思います。
Q:すごく細かいですが、フィルム掛け替えの合図となるチェンジマークは残すのでしょうか。
阿部:監修者の方によってはチェンジマークを残すこともあるかもしれませんね。
新井:実際に残したことも過去にはありました。