※向かって左よりIMAGICAエンタテインメントメディアサービス新井陽子氏、同:阿部悦明氏
『市川雷蔵映画祭 刹那のきらめき』レストア担当:新井陽子 × グレーディング担当:阿部悦明 50年以上前のフィルムは如何にして甦ったのか【CINEMORE ACADEMY Vol.36】
ネガとポジで異なる粒子の調整
Q:フィルムの粒子に関してはいかがでしょうか。最近は全て消してしまっているリマスター作品も見受けられます。
新井:レストアでゴミや傷を消していく過程で、どうしても粒子も失われてしまうんです。よって、粒子をどの程度維持するかは最初に決めておく必要があります。今回はフィルムらしさを無くさず公開当時の姿を目指すという目標があったので、粒子は極力維持する方向で作業しました。
オリジナルネガをスキャンしての作業なので情報量が多くて画質も良いのですが、公開当時に観客が観ていたのは映写されたポジフィルム。ネガとポジでは粒子の出方がまったく違っていて、ネガからスキャンしたままだとノイズっぽく感じることがあります。ネガのきつい粒子を落としつつもフィルムの質感は損なわない。そこの調整は必要でしたね。
『新源氏物語』©KADOKAWA 1961
Q:今回の『新源氏物語』4Kデジタル修復版を観ると、スタジオで撮られたであろう屋内シーンと、ロケで撮影されたような屋外シーンでは光量の違いからか粒状性が全然違って見えました。屋内シーンはフィルムの感じが出ていたのですが、屋外シーンはデジタルのようにクリアな印象がありました。昔も同じようにクリアに見えていたのでしょうか。
阿部:実際に現存しているフィルムをお借りして映写チェックをしたのですが、とてもクリアでした。その点からも、リマスターしたものが当時よりもクリアになり過ぎているということはないと思います。
また、当時のフィルムは今ほど感度が良くないので、ものすごく光を当てないと写らない。それでも『新源氏物語』はすごく煌びやかに色が出ているので、現場では相当な光量を使ったことが想像されます。有名な監督などは、一般的なプログラムピクチャーよりも多くのライトを使うことが許されていたようで、光量が多いほどコントラストが強くてクリアな映像になると思います。