![『ハイパーボリア人』クリストバル・レオン監督&ホアキン・コシーニャ監督 × 八代健志監督 『オオカミの家』に続くアナログ手法の映画制作【Director’s Interview Vol.470】](https://cinemore.jp/images/575d666deb44c1713b2be6041ecbe74a5bcbeb0fccdd4a9931b4ebb177fbbc80.jpg)
向かって左よりクリストバル・レオン監督、ホアキン・コシーニャ監督、八代健志監督 © Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
『ハイパーボリア人』クリストバル・レオン監督&ホアキン・コシーニャ監督 × 八代健志監督 『オオカミの家』に続くアナログ手法の映画制作【Director’s Interview Vol.470】
完璧さをあえて壊して生まれるものは
Q:『ハイパーボリア人』は『オオカミの家』と同じく、映画の人形やセットをワークショップで若者たちと一緒に作ったとお聞きしました。とても斬新な試みだと思いますが、それによって得られたものはありますか。
レオン:まず一つは、ワークショップで人に教えながら作るという作業を通して、自分たちが作ろうとしているものを整理していくことができます。
そしてもう一つは、今回も『オオカミの家』と同じく美術館のパブリックスペースを使って制作をしているので、一般の方が入ってきて参加してもらうこともあるんです。それによって何が起きるかというと、コントロールを失うんです。コントロールを失うというのは、自分たちが思っていた完璧なことを一回壊す形になって、思いもよらないことが起きるわけです。自分たちの考えていた創造物の主が自分たちだけではなくなり、思わぬ方に向かっていく。そういう点においてこの手法は面白いと思っています。
コシーニャ:もちろん私たちは高い技術についても尊重しています。ですが、ワークショップでプロではない学生や一般の方が参加することによって、美しいものを簡単に、できるだけシンプルに作る工夫をする。その過程を私たちは楽しんでいるのです。造形物の中には材料に廃材を使っているものもあります。元々ゴミだったものが彼らの手によって美しいものに変わっていく。そうやって価値を見い出すことにも面白みを感じています。
『ハイパーボリア人』© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
八代:今のお話は、僕が想像していたこととは全く逆の方向性だったので驚きました。一見ラフな偶然性によって作られている作品に見えますが、実は要所要所にものすごく高いレベルの造形や写実的な表現が入っていますよね。ワークショップでたくさんの人が手がけているにも関わらず、そんな高いレベルの技術が自然に含まれていることにとても驚きを感じます。どうやって偶然性とコントロール性のバランスをとっているのかお伺いしたいと思っていたのですが、どちらかというと逆だった。壊すことを楽しんでいるという方向性だったんですね。
レオン:そうですね、全く逆だったということではないと思いますが、どちらかといえばコントロールを厳格にしているということではありません。実は私も作品が出来上がってみると、「あれ、こんなのあったっけ。こんな風だったっけ」と自分で驚くこともあります。映画『フランケンシュタイン』(31)のように、私たちはとりあえず命を吹き込むための形を作り、その後どのように動き出すかはその作り上げたものたちの意思に任せるような、そういったスタイルが映画に生かされるのが大好きなのです。
八代:なるほど。そういった余裕のようなものが作品に良い形で出てきているのを感じます。
コシーニャ:私たちはプロセスで生まれてくるものを大切にしたいと思っています。なんでも100%完璧で美しいものを求めるのではなく、一人ひとりが生み出す仕事、その人がやっている作業や発想から、新しいことや面白いことを発見していく事もプロセスの美しさだと。もちろん私たちは非常に時間をかけて仕事中毒のように働くのですが、それは完璧なものを作るためではなく、一歩一歩のプロセスを大事にして、その中で美しいものを見つけ出していくことを大切にしています。