難しいのは“やりたいこと”を見つけること
Q:脚本に出会ってから映画化までかなりの時間を要しましたが、内容を変えた部分などはありますか。
根岸:脚本はずいぶん変わったと思います。当初は大正ロマンの要素などがもう少しありましたが、3人の関係性や葛藤にフォーカスを絞りました。今の時代に映画館で観てもらうためには、シェークスピア的な世界観よりも、若い3人の葛藤に絞った方が受け入れられるのではないかと。
Q:長谷川泰子、中原中也、小林秀雄らは、クリエイティブな世界に没頭し、ある意味浮世離れした存在です。彼らを描くにあたり役者の皆さんにはどのような話をされましたか。
根岸:まぁ浮世離れというか、とにかく彼らは才能があるんですよね。特に中原と小林に関しては並外れた才能を持っている。そういう人にも生活や恋愛があるということ。才能や創作とは別な次元で、悲しみ、悩み、苦しんでいる。もちろん才能があるという意味では特別な人なわけで、その才能をお互い認め合っているところを描きつつも、それ以外の部分は僕らと同じ一人の人間なのだと。
中原と小林は認め合っているだけにとどまらず、お互いの才能の発見者だと思い込んでいました。その2人の特殊な関係の間に、長谷川泰子が対等どころかある種上から目線のように存在している。不思議な面白さがありますよね。
『ゆきてかへらぬ』© 2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
Q:最後の質問ですが、学校ではどういうことを教えられていたのか是非お聞かせください。
根岸:一番難しいのは自分がやりたいことを見つけること。僕らもそうだけど、本当に何をやりたいのかを見つけるためには、やっぱり多くの映画を観ていないとたどり着けない。その次に、撮りたいものや人、場所などを見つけていく。だから演出なんてものはもっと後でいいんです。慌てることなく勉強していればそれで良いし、実際僕なんかいまだに何も言わないで映画が撮れてるんだから(笑)。
そんな僕でも、現場では「こういうふうに動いてくれ」「こっちを向いてくれ」「もっと間を持ってくれ」など、細かいことはたくさん言っています。結局それは、自分の頭の中にある映像と、目の前で俳優やカメラがやっていることでズレが生じているんです。そのズレを見つけて修正していくこと。「何か違うな」ということを見つけられるようにすること。そんなことを伝えていますね。
『ゆきてかへらぬ』を今すぐ予約する↓
監督:根岸吉太郎
1950年8月24日生まれ、東京都出身。早稲田大学第一文学部演劇学科修了後、日活に入社。78年『オリオンの殺意より、情事の方程式』で初監督。81年『遠雷』でブルーリボン賞監督賞、芸術祭選奨新人賞を受賞し、05年『雪に願うこと』で芸術選奨文部科学大臣賞、第18回東京国際映画祭の4部門受賞をはじめ、多くの映画賞を獲得する。09年、映画『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』では、モントリオール世界映画祭 最優秀監督賞受賞。10年には紫綬褒章を受章。主な監督作品に『狂った果実』(81)、『探偵物語』(83)、『ひとひらの雪』(85)、『ウホッホ探検隊』(86)、『永遠の1/2』(87)、『絆-きずな-』(98)、『透光の樹』(04)、『サイドカーに犬』(07)などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『ゆきてかへらぬ』
2月21日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会