
向かって左からオーブリー・“ポー”・パウエル、アントン・コービン (c)Anton Corbijn
『ヒプノシス レコードジャケットの美学』アントン・コービン監督 ヒプノシスが持つ強烈なアイデア【Director’s Interview Vol.475】
時代の変化とアートワーク
Q:後にあなたはデペッシュ・モードのようなバンドのアートワークを手がけていますが、こうした仕事にヒプノシスの影響があると思いますか?
コービン:確かに1993年以降は、デペッシュ・モードのアートワークを担当していますが、ヒプノシスの系譜上にあるデザインではなく、私自身のスタイル、つまりそこには手作りの感覚が入っています。完璧過ぎないこと。これが私には重要なポイントです。手作りの感触が残るよう、あえて心がけています。一方、ヒプノシスのアイデアは本当に秀逸で、むしろ完全なものに近づこうとしています。そういう意味ではコンセプトが異なるので彼らの影響は受けていませんが、そのデザインそのものは大好きです。私自身もピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアのアルバムのアートワークや写真を手がけましたが、ヒプノシスの仕事と比べていただけると、そのアプローチの違いが分かっていただけると思います。
『ヒプノシス レコードジャケットの美学』(c)Hipgnosis Ltd
Q:1970年代、ロック・アルバムのアートワークには大きなインパクトがありました。しかし、その後はサイズの小さなCDとなり、今はデジタル配信の時代となることで、かつてのようにアートワークが重視されなくなりました。こうした時代の変化をどう思いますか?
コービン:確かにそういう風に時代が流れていて、その点はものすごく残念だと思っています。かつてのアナログ盤のジャケットは大きかったのに、その後はCDそして、現在のユーチューブでは切手くらいのサイズになってしまいました。イメージの伝え方も変わり、小さなサイズでも分かるものになりました。ジャケットがかつてほど重要ではないものに変わりました。それと並行して、人々はリアルな現物のために時間を割かなくなりました。多くの人はソーシャル・メディアに次から次へとイメージだけをアップしています。これは非常に不健康な状態で、本物の美を見る目を失いつつあると思います。
Q:いま新作に取り組んでいるそうですが、これについて話していただけますか?
コービン:ジョアンナ・マレー=スミスの舞台劇の映画化で、“Switzerland”というタイトルです。パトリシア・ハイスミスを描いた作品で、ヘレン・ミレンがハイスミスの役を演じています。今年の1月から撮影に入る予定です。
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監督:アントン・コービン
ポートレート写真家としてキャリアを築いた後、ミュージックビデオの製作も開始。以来、U2、ジョニー・キャッシュ、アーケイド・ファイア、デペッシュ・モード、ニルヴァーナ、メタリカ、ニック・ケイヴ、コールドプレイ、ザ・キラーズなど名だたるアーティストのプロモーションに関わってきた。ジョイ・ディヴィジョンのリード・ボーカル、イアン・カーティスの人生と死を描いた初の長編映画『コントロール』は、2007年カンヌ国際映画祭で5つのBIFA賞とカメラドール特別賞を含む約20の賞を世界中で受賞。その後、ジョージ・クルーニー主演『ラスト・ターゲット』(2010)、故フィリップ・シーモア・ホフマン主演『誰よりも狙われた男』(2014)、ジェームズ・ディーンと写真家デニス・ストックを描いたロバート・パティンソン&デイン・デハーン主演『ディーン、君がいた瞬間』(2015)を製作。デペッシュ・モードとそのファンを描いたコンサート映画『Spirits in the Forest』が2019年に公開された。
取材・文:大森さわこ
映画評論家、ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウェブ連載を大幅に加筆し、新原稿も多く加えた取材本「ミニシアター再訪 都市と映画の物語 1981-2023」(アルテスパブリッシング)を24年5月に刊行。東京の老舗ミニシアターの40年間の歴史を追った600ページの大作。
『ヒプノシス レコードジャケットの美学』
公開中
配給:ディスクユニオン 配給協力:アルファズベット
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