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『TATAMI』ザーラ・アミール監督 敵と教え込まれたイスラエルの監督と映画を撮った理由【Director’s Interview Vol.477】

© 2023 JUDO PRODUCTION LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『TATAMI』ザーラ・アミール監督 敵と教え込まれたイスラエルの監督と映画を撮った理由【Director’s Interview Vol.477】

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2019年、日本で行われた世界柔道選手権。イラン代表の男子選手に起こったある事件を基に作られた映画が『TATAMI』だ。イランの女子柔道選手、レイラ・ホセイニが国際大会で勝ち進むが、同じ階級でイスラエルの選手も勝ち上がっていくことで、イラン政府から監督のマルヤムに非情な連絡が入る。それは「イスラエル選手と決勝で当たる前に、レイラに途中棄権させろ」というもの。しかしレイラは、本大会での優勝を視野に入れており、その指示を無視して畳に上がり続ける。やがてイランで応援するレイラの家族にも危険が……。


この『TATAMI』が画期的なのは、イスラエルとイラン、それぞれの出身の共同監督で作られたこと。政治的には強烈に反発し合う両国のクリエイターが、なぜひとつの作品でタッグを組むことができたのか。イラン側の監督は、『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞し、俳優としてのキャリアもあるザーラ・アミール。イラン政府を批判する面も濃厚な本作に関わったのは、ザーラが祖国イランを亡命したからでもある。現在の拠点であるフランスのパリとつなぎ、彼女のインタビューを行った。


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監督を受けるかどうかの迷いが、演じる役と重なった



Q:イスラエルに対して、純粋にどのような感情を持っていましたか?


アミール:小さい時から、イスラエルは敵だと教えられ育ってきました。それは紛れもない事実です。


Q:そのイスラエルのガイ・ナッティヴ監督から本作のオファーを受けたわけですよね。


アミール:はい。最初にマルヤム役として出演のオファーがありました。主人公のレイラを指導する、イラン女子チームの監督です。そこで脚本を読んだところ、マルヤムの出番をもっと増やした方がいいと感じ、脚本家も交えて役を膨らませてもらうことにしました。そのプロセスで、ガイはイラン女性の映画を自分だけで撮るのはハードルが高いと感じたのでしょう。私の役割はキャスティングなど他のことにも広がっていき、「ちょっと待って。そこまでできるだろうか」と悩みながらも手伝い始めたところ、流れで共同監督を頼まれたわけです。



『TATAMI』© 2023 JUDO PRODUCTION LLC. ALL RIGHTS RESERVED


Q:すんなりと共同監督を引き受けたのですか?


アミール:そういうわけでもありません。もし自分がイスラエル人と一緒に監督を務め、映画を作ったとしたら、イランに残っている家族や友人に危害がおよぶのでは……と心配になったからです。(俳優として出るだけでなく監督を引き受けるのは)越えてはいけないラインだと思いました。同時に、これは演じるマルヤムの葛藤と一緒だと気づいたのも事実です。


Q:それはどういうことでしょうか?


アミール:劇中でのマルヤムは、10年ほど前にイランの代表選手だった時代に、レイラと同じ状況となり、国の指示で大会を棄権しました。そこでの後悔を今でも心に引きずっています。彼女が今度こそ、教え子の棄権を止めるべく自分の意思を貫くか、あるいはまたしても自国の命令に素直に従うのか。その迷う気持ちが、監督を引き受けるかどうかの私と重なって……。時間がかかり、難しい選択でしたが、共同監督を受け入れることにしました。ガイにはずいぶん待たせてしまい、申し訳なかったです。




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