
© 2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』ショーン・プライス・ウィリアムズ監督 皆がハッピーなのが理想の現場【Director’s Interview Vol.479】
多面性を持たせる
Q:現代社会においては物事の変化のスピードがとても早いですが、その実、人の内面的な部分はあまり変化していない。そんなことを映画を観て感じました。
ウィリアムズ:そうですね。脚本を書いたのは9年以上前なのに、それが今でも通用してしまうことにフラストレーションを感じます。この作品は批判的な内容を孕みモラルや価値観に問いを投げかけますが、9年前と変わらず今でもその批判が通用してしまう。つまりそれは根本となる問題が変わっていないということ。むしろ悪化してしまっている。新政権も誕生してしまったし、暗澹たる思いです。
もし1年前に同じ質問をされたら、「きっと良くなるんじゃないかな」と気楽に答えられたと思いますが、この映画が提示していることは残念ながら今の世界と関連づけられています。アメリカで今作られている映画は、スーパーヒーローものであれアクション映画であれ、本当に大事なことには触れていません。だからこそ僕たちは、この映画できちんとステートメントを掲げて、現状に何らかのメッセージを提示したかったのです。
『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』© 2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:映画の中では色んなイデオロギーを取り扱っていますが、皮肉がありつつもチャーミングに見える部分もあります。意図したものはありましたか。
ウィリアムズ:ニックが避けたかったのは、登場人物を定形の分かりやすい人にすることでした。一見風変わりな人たちを描きながらも、リアルであってリアルではないことを心がけています。例えば、映画に出てくるシャーロッツビルに向かうパンクな活動家たちはすごくマンガっぽくして、現実の人たちとはかなり見た目を変えました。また後半に出てくるムスリムの人たちは、ダンス好きな一面を持たせて、怖い雰囲気を和らげました。ネオナチのローレンス教授はご指摘の通りチャーミングな人物に描きましたが、実は脚本家のニックの知人がモデルになっています。そうやってリアルに描くことを避けながらも、多面性を持たせることを心がけました。