『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)『そして、バトンは渡された』(21)『九十歳。何がめでたい』(24)など、話題作・ヒット作を次々と生み出し続けている前田哲監督。その前田監督が長年にわたって望んだ映画化がついに実現した。原作は、第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集「花まんま」の表題作。前田監督の卓越した演出力により、笑って泣けるエンターテインメント作品として見事に映像化されている。前田監督はいかにして『花まんま』を作り上げたのか。話を伺った。
『花まんま』あらすじ
大阪の下町で暮らす二人きりの兄妹・俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)。死んだ父との約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた俊樹は、フミ子の結婚が決まり、やっと肩の荷が下りるはずだった。ところが、遠い昔に封印したはずの、フミ子の〈秘密〉が今になって蘇り……。フミ子には幼少から別の女性・繁田喜代美の記憶があった。「生まれ変わり」のようだがフミ子の存在は確固としてある。フミ子が生まれたときに、若くして事件に巻き込まれ亡くなった女性の心が移っていたのだ。それから22年―、結婚式の前日、フミ子が隠し続けてきた事実が発覚する――。
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観客が劇場で見たいかどうか
Q:本作は前田監督たっての企画だったとのことですが、原作のどんなところに惹かれたのでしょうか。
前田:無垢で純粋な子供たちが思いを届けようとするところに、すごく惹かれました。彼らの冒険譚でもありロードムービーでもある。何だかすごく映画的だなと。兄と妹がお互いに思い合っているところや、二人が親を亡くしていることも大きくて、失ってしまったものに対する優しさのような、思いやりに包まれている世界観も良かった。そして、兄と妹の物語と思いきや、もう一つの家族である繁田家の物語でもある。すごく分かりやすいエンターテイメントでありながらも、重層的な深さも持っていました。
自分の琴線に触れることも大事ですが、やっぱり観客の心に届くものでありたい。そのために必要なものが、朱川湊人さんが書かれた短編にギュッと入っていたんです。親が子を思うこと、子が親を思うこと、兄妹がお互いを思うこと、そういった普遍的なものを映画として広げていきたい。そこの醍醐味もありましたね。
『花まんま』Ⓒ2025「花まんま」製作委員会
Q:読んで終わる小説と、映画化したいと思う小説に違いはありますか。
前田:劇場に足を運んでくださる観客がいるかどうかが一つの尺度になります。自分が映画化したいと思う原作もありますが、観客はそれを劇場で観たいと思うのか? 自分と同じように感動してくれるのか? 良いものを作ることは大前提ですが、難しいのはその先。映画は配信やテレビと違ってスイッチを入れれば流れるものではない。お金を払って来ていただくというところはすごく意識しています。
今回は観てもらえれば伝わるという確信はありましたが、そもそも観たいと思ってもらわなければ始まらない。そのためにもピッタリの二人をキャスティングできました。そこの自負はありますね。