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『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』エレン・クラス監督 ビジュアルを駆使して本能に訴えかける【Director’s Interview Vol. 488】

© BROUHAHA LEE LIMITED 2023

『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』エレン・クラス監督 ビジュアルを駆使して本能に訴えかける【Director’s Interview Vol. 488】

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ビジュアルを駆使して本能に訴えかける



Q:のどかで暖かな南仏、暗いロンドン、寒々しいフランス、重苦しいドイツ国境と、色調の変化でその時代や場所の空気が伝わってきます。まさに撮影監督としての経験が生かされた点かと思いますが、映画のトーンに関してカメラマンとはどんな話をしましたか。


クラス:今回は監督に専念しましたが、ビジュアルデザインには深く関わりました。撮影監督のパヴェル・エデルマンはポーランド生まれで、これまでロマン・ポランスキーの『戦場のピアニスト』(02)や、アンジェイ・ワイダの作品などに関わってきた方です。人間的な視点を持った才能溢れるカメラマンで、自分の感覚と近いものがありました。映画の方向性について、彼とはたくさん話をしました。


冒頭の南仏のシーンでは、政治的不穏が隣国で起こっているにもかかわらず、それに対して全く疑いを抱かないような、自由で生き生きとした色合いを目指しました。そこでは生命力と躍動感にあふれた楽しい感じに見えますが、映画は戦争の激化に伴いだんだんと暗くなり、最終的にはほぼモノクロになります。そうやってビジュアルやトーンを駆使して、本能に訴えかけるようにストーリーを語っていきました。


一方でそのコントラストになるのが、70年代のインタビューシーンです。撮影や美術、衣装などリサーチを重ねた上で再現しつつ、戦時中とは違う見え方を意識しました。



『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』© BROUHAHA LEE LIMITED 2023


Q:映画の冒頭、南仏で休暇を過ごしているリーたちの背後では、戦争の影が忍び寄ってきます。どこか今の時代とシンクロしているような印象もありました。


クラス:冒頭の南仏のシーンはヒトラーがポーランドを侵攻する直前の時代、まさに今とパラレルだと感じます。当時はヒトラーがすぐそこに潜んでいることを周りの人は全く疑わなかった。今も同じ状態が起こっていて、アメリカでは政治的に大きな変化が起こり、世界ではファシズムが台頭してきている。加えて、当時の状況を知る戦争経験者はどんどん少なくなってきています。あのとき一体何が起こっていたのか、その記憶を受け継ぎ次の世代に伝えていくのは、とても大事なことだと思います。


この映画を観た世界中の方々が、「とても感動した」と伝えてくれます。それはリー・ミラーの生き方に対してだけではなく、当時が今の時代とパラレルなのだということに気付かされ、心を動かされたことによるもの。ケイト・ウィンスレットをはじめとした世界トップクラスの俳優が集まりこの物語を語ろうとしたこと自体が、この映画の重要性を示していると思います。


Q:カメラマンやフィルムメイカーなど、ビジュアルを通して世の中に訴求していく仕事について、その意義をどう感じていますか。


クラス:映画や写真、ジャーナリズムなどの仕事は、今の時代ますます重要になってきています。何が真実で何が大切なのか、人類の歴史において何が起こったのか、そして今何が起こっているのか、常に疑問を持ち考え続けることがとても重要。私たちの仕事はそのきっかけを与えるものだと思います。


リー・ミラーは戦争特派員でしたが、当時そういった職業は非常に聖なるものと考えられていて、戦場にいてもターゲットからは外されていました。彼らの仕事はそれほど大切なものだという認識があったわけです。それが今は逆になっていて、ジャーナリストだからこそターゲットになるという時代。そんな中、戦場からの写真や記事がどれだけ大切なものなのか、私たちは認識する必要があると思います。



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監督:エレン・クラス

撮影監督・映画監督。革新的な映像表現で知られ、特に映画『エターナル・サンシャイン』(2004年)では、斬新なカメラワークと自然光の巧みな活用で高く評価された。監督としても才能を発揮し、長編ドキュメンタリー『The Betrayal – Nerakhoon』(2008年)ではアカデミー賞にノミネートされ、2010年にはプライムタイム・エミー賞を受賞。『Swoon』『Angela』『Personal Velocity』ではサンダンス映画祭の最優秀撮影賞を3度受賞。『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』で長編映画監督デビューを果たす。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。




『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』

5月9日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

配給:カルチュア・パブリッシャーズ

© BROUHAHA LEE LIMITED 2023

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