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『フィクティシャス・ポイント』服部正和監督 自分の作りたい映画に正直でありたい【Director’s Interview Vol.490】

『フィクティシャス・ポイント』服部正和監督 自分の作りたい映画に正直でありたい【Director’s Interview Vol.490】

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自分のDNAに組み込まれた映画たち



Q:俳優への演出はどのように行なっているのでしょうか。


服部:今回はいわゆる“本読み”をしませんでした。俳優たちに言ったのは「目の前で起きることに対して反応すれば大丈夫」ということ。予定調和になることなく、そのときの状況に合わせて欲しい。例えば海だったら、波が近いから必然的に声を大きくしないと聞こえない。そうやって現場に行かないとわからないことも多い。会議室の中だけでは掴めないところがあるんです。現場で実際にやってもらい、その場で出てきたものをひたすらカメラに収めていきました。


脚本の内容や登場人物の感情については、俳優1人1人で解釈が違う。それを出してもらいながら、整合性が合わないようであれば調整していく。そこが僕の役割だったと思います。


Q:スピルバーグやノーランなど、随所に強いオマージュを感じました。


服部:好きな映画の影響はどうしても避けられないですね。音楽をやっている人や絵を描く人などもそうだと思いますが、先人たちの作品は何かしら自分のDNAに組み込まれていて、どうしてもそれが出てきてしまう。多くの人がそれで悩んでいると思いますし、ゼロから作る人ってなかなかいないのではないかと。それでも僕は好きなものに対して正直でありたい。『レイダース』なんて毎日DVDを借りて観ていたら、とうとう母親がDVDを買ってくれました。100回レンタルするくらいだったら買った方が安いと思ったんでしょうね(笑)。そういう好きなものは隠さずに前面に出していきたい、それが僕の映画を作る上でのスタンスですね。


それでも、同じ構図で同じショットを撮ったとしても、同じにならないのが映画の不思議なところ。ガス・ヴァン・サントが、ヒッチコックの『サイコ』(60)と全く同じようにリメイクしたことがありましたが、やっぱりヒッチコックのそれとは全然違う。その監督が持っている“癖”みたいなものが出てしまうのかなと。そういう点では、僕も映画を作るたびに自分の癖を発見している感覚があります。それが自分の持ち味かもしれないと、次の作品ではそこに注力してみる。そうやって常に自問自答しながら映画を作っています。



『フィクティシャス・ポイント』© CIELOSFILM/Cinemago


Q:念願の劇場公開となりましたが、今後はどのように活動されていくのでしょうか。


服部:考えている企画やプロットがあり、脚本も筆が乗り始めたところだったのですが、『フィクティシャス・ポイント』の公開が決まってからはその宣伝活動で手一杯になりました。映画を作ることは大変ですが、それを世に送り出すこともいかに大変か、身をもって体感しています。そういうことで今は創作の時間が取れないので、次回作は一旦棚上げ状態ですね。僕は行き当たりばったりの人生なので(笑)。


Q:影響を受けた好きな映画や監督を教えてください。 


服部:『レイダース』は僕のバイブルで、映画館でリバイバルされると必ず観に行きます。高校生でヒッチコックの『サイコ』に出会ったことも大きかったですね。『北北西に進路を取れ』(59)も好きですし、『三十九夜』(35)や『海外特派員』(40)などの初期作品も大好きです。

 

小さい頃からハリウッド映画に慣れ親しんでいると邦画を観る機会がなかなかないのですが、高校の先輩から勧められて観た、岩井俊二監督の『Love Letter』(95)には衝撃を受けました。他には『ブレードランナー』(82)も大好きですし、先日亡くなったデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(01)を観たときの衝撃は忘れられません。この『フィクティシャス・ポイント』の脚本は、『マルホランド・ドライブ』のサントラを聴きながら書いていました。



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監督/脚本/編集/製作:服部正和

1997年東京生まれ。立教大学映像身体学科卒業。9歳の頃、『レイダース/失われたアーク』に衝撃を受け、映画監督という存在にも興味を抱く。その後まもなく、クラスメイトを集めて撮った短編ストップモーションがきっかけで映画制作に没頭、中学卒業までは仲間内で楽しむ。錦城高等学校に進学すると映画研究部に所属し、3年間で3本の短編を制作する。この内の2本『The Lost Heart』(2013)と『IDENTITY』(2015)は、NHK杯全国高校放送コンテストで入選し、大林宣彦氏が主催する映像フェスティバルにも正式出品された。『OBSERVER』(2014)は西東京市民映画祭にて史上最年少で入選。以降も主に劇映画を作り続け、映画祭や上映会などで経験を重ねていく。立教大学では映画監督の篠崎誠(『SHARING』『おかえり』/映像身体学科教授)に師事。卒業制作の『FRONTIER』(2020)で、京都国際学生映画祭《実行委員賞》をはじめ、日本芸術センター映像グランプリ《預言賞(特別賞)》を受賞。ハンブルグ日本映画祭に正式出品された。現在はTVCMの制作会社に勤めながら自主映画を撮り続けている。最新作『フィクティシャス・ポイント』(2024)は、『MERCURY』(2018)、『FRONTIER』に次ぐ長編3作目。大須インディペンデント・フィルム・フェスティバルで《観客賞》《GACHINKO Film賞》をW受賞し、ハンブルク日本映画祭に正式出品された。映画ライターCHE BUNBUN氏が2024年6月に発表した「2020年代注目の映画監督100選」では、数少ない日本人監督の中で工藤梨穂氏、遠藤幹大氏と並び選出された。ほかに監督作として、『湯気のゆくえ』(2019)、『線香花火の冷たい恋』(2019)、『午前0時、視えない声』(2021)がある。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『フィクティシャス・ポイント』

5月16日(金)より下北沢トリウッドにて劇場公開

配給:Cinemago

© CIELOSFILM/Cinemago

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