良い脚本があれば良い演技が自然と出てくる
Q:チカは一見とても厳しい妻ですが、彼女は100%間違っておらず、夫を愛してないと言いつつも実は深い愛があることに感動しました。
足立:チカって間違っていないですかね? 自分の中では2人とも同等に間違っているし、正しくもあると感じているのですが…、でもそう思っているのは僕だけみたいなんです。「この夫が間違っていることだけは確か!」と、9割9分9厘そう言われます(笑)。僕としては「いや、2人とも一生懸命でしょ」という感じなんですけどね。
Q:これまでにチカを演じた、MEGUMIさんも水川あさみさんもすごく良かったです。お二人の実力もさることながら、監督の引き出し方も良いのではないでしょうか。
足立:僕は監督としての能力はそんなに高くないと思いますので、俳優さんの演技が良いと言ってくださるのであれば、その理由の一つには脚本があるのかなと。自画自賛のようで恥ずかしいのですが、俳優さんは皆さん個々に力をお持ちなので、良い脚本があれば良い演技が自然と出てくる。もちろん他の方の作品を観ていても、脚本が良いものは俳優さんも自然といい演技になっていると思いますね。だから当たり前ですが、どんな作品でも面白い脚本が俳優さんの能力を引き出す大きな武器になると思います。
Q:現場ではどのように演出されているのでしょうか。
足立:面白い脚本があって俳優さんがいれば、その時点で大丈夫。「ああしてください、こうしてください」などは言いません。特に主演の二人には、ほぼ何にも言っていないと思います。一点だけお伝えしたのは、「あまり細かく切らずに、一連でお芝居を撮らせてください」ということ。ただ、かなりのページ数をそのまま一連で撮影したので、そこはもしかしたらご苦労されていたかもしれません。
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
Q:風間俊介さんとMEGUMIさんがハマりすぎていて驚きました。
足立:ドラマになる前から、MEGUMIさんはチカに合うだろうなと思っていました。風間さんはバラエティに出たり、社会問題を取り扱った番組の司会などもされているので、そのイメージに豪太という男が組み合わさると一体どうなってしまうのか、そこは楽しみでしたね。実際にはその混ざり具合から、非常に小賢しい男が出来上がりましたが…(笑)。もう口を開けば開くほどどんどんダメになっていく感じがすごく出ていて、チカがこの男にイライラするのが本当によくわかりました(笑)。
Q:自伝的小説ということで、豪太は足立監督自身の部分もあるわけですが、ここまで“どうしようもない人”として自分を描くことに抵抗はありませんでしたか。
足立:僕自身はもうちょっとひどいです(笑)。こういった取材の場などは平気なのですが、演出する際には恥ずかしさを感じますね。要は自分を演じてもらっていることが非常に申し訳なく、「俺は一体何様なんだ」と。俳優さんから「お前を演じることに何のメリットがあるの?」という感情を持たれても全く不思議ではないなと。もちろん仕事として受けていただいている前提があるので、そこはクリアしているとは思いますが…(笑)。
Q:主演のお二人に負けず劣らず、息子の太郎を演じた嶋田鉄太くんもまた素晴らしかったです。現場ではどのように演出されたのでしょうか。
足立:彼については僕もすごいなと思いました。オーディションのときから子役感がないというか、本当に自然体でそこに座っているだけなんです。ただ、ハキハキしているわけでもなかったので、この子がやったら面白くなりそうだけど、果たして現場でコントロールが効くかなと…。正直賭けの部分もありました。それでも現場に入るとコントロールすることなど必要なく、野放しでちょうど良かった。ちょっと特性を抱えた役ではあるので、本人は難しかったと思うのですが。
Q:特性を抱えている役ということは、本人は理解していたのでしょうか。
足立:「太郎はちょっと学校に行くのが嫌で、YouTubeで“どぶろっく”とかをずっと見ちゃったりするところがあるんだよ」といった話はしましたが、あまり深くは伝えていません。実際にうちの息子は自閉スペクトラム症で、まさに太郎みたいな感じなのですが、小説を書いたときはまだ保育園児で「ちょっと雰囲気が違う子だな」くらいの印象でした。ドラマを作るときには小学生になっていたので、息子の設定もそれに合わせて書き直しています。