年収10万円のダメ夫と、セックスさせてくれない恐い妻。テレビ大阪で大人気を博したドラマ『それでも俺は、妻としたい』が、未公開シーンを加え映画館で蘇る! 映画は腹がよじれるほどの爆笑の連続。ある意味鉄板ネタが描かれるわけだが、それだけでは終わらないのが足立脚本のすごいところ。夫婦の心の奥底にある愛情を観ている側にガッチリと打ち込んでくる。爆笑コメディを観ていたはずが、いつの間にか人情ドラマで涙を流すことに…。まさに名脚本家のマジックだ。
原作・脚本・監督を務めた足立紳氏は、いかにして本作を作り上げたのか。話を伺った。
『それでも俺は、妻としたい』あらすじ
柳田豪太(風間俊介)、42歳。売れない脚本家で収入もなく、浮気するような勇気もなければ風俗に行くような金もない。性欲を処理するためには妻とするしかないのだが、妻のチカ(MEGUMI)にお願いすることが空よりも高いハードルとなっている。日中働いているチカの代わりに不登校気味の息子・太郎(嶋田鉄太)の面倒を見ているがそれもチカには「当たり前だろうが」と一蹴されてしまう。豪太はあの手この手を使ってセックスしようと奮闘するが、チカはそんな豪太をとことん罵倒する。「したい」夫と「したくない」妻、夜の営みをめぐる攻防戦の結末やいかに…。
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「これは映画にしたい!」と言い続けた
Q:当初から映画化への思いがあったそうですが、なぜテレビドラマから始まったのでしょうか。
足立:最初は映画にしたくてプロットを書いていたのですが、そう簡単には映画化できず、お声がけいただき小説にすることになりました。その後プロデューサーの佐藤現さんが、「まずはテレビドラマとしてやってみませんか?」と誘ってくださったんです。テレビ局に無事企画も通ったので、すぐに「劇場版も一緒にやりませんか?」と相談しました。もちろん簡単にOKは出ませんでしたが、それでも「映画版を作りたいです」と言い続けました。僕はいつも映画から発想していくので、「とにかく映画にしたいです!」ということだけをずっと言い続けていました。
Q:どのタイミングで映画版を作ることが決まったのでしょうか。
足立:クランクインの時には映画版を作る感じになっていました。スタッフもキャストも、ドラマを作りつつも「スクリーンで観てもらうぞ」という心意気だったと思います。ただ、ドラマも撮影が大変だったので、ドラマをどのように映画にするか明確なプランはまだなく、そこは編集段階になって見つけていきました。
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
Q:『喜劇 愛妻物語』(19)に続いて再び柳田家が描かれます。意識されたものはありましたか。
足立:同じ夫婦を描いてはいますが、『喜劇 愛妻物語』の方は家族が旅に出ている言わば非日常の映画で、逆にこちらは普段の生活が描かれるので、そこの違いはハッキリさせようと思っていました。
Q:本作は自伝的小説が原作で、ある種のメタ構造となっていますが、ご自身の生活が「面白い物語になるぞ」と、いつ頃確信されたのでしょうか。
足立:それが今でも確信はないんです(笑)。昔から西村賢太のような私小説が好きで、「誰でも一本は傑作を書ける。自分の周囲の世界を書くことだ」という新藤兼人の言葉をドラマの中でも使いましたが、ちゃんと自分のことを書けば1本どころではなく永遠に面白いものが書けるのではないか。正直に書くとみっともない部分にも触れざるを得ないし、それは絶対に誰もが持っているもの。実際僕はそういったものに力をもらってきたので、自分が面白いと思ってきたものを作りたかった。ただ、面白いとは思いつつも、確信を持って言いづらいところもあって…、常に不安がある感じですね。