一対一の関係で描く
Q:実際のご自宅で撮影されたそうですが、背中越しについていくカメラワークが印象的でした。
足立:自宅で撮るということは、家の中でのリアルな動きを再現するということ。カメラもなるべく人物にくっついて、臨場感や生活感が浮き彫りになることを目指しました。まずはリハーサルで俳優さんに自由に動いてもらい、それをどうやって追いかけるかを考えました。カメラマンとはたくさん話をしましたね。
もしこれがハウススタジオでの撮影だったら、俳優さんたちは「ここでどんな生活をしていたんだろう」と想像することが難しい。一方、実際に人が住んでいる場所で撮影すると、「この家だとこういう動きになるよね」と想像しやすいんです。
Q:予告にも出ていますが、超望遠からのクイックズームで爆笑してしまいました。
足立:あのシーンでは、チカが今まで腹に溜めていた自身の弱さやズルさが爆発するのですが、そのときの豪太の表情を最初は見せないようにしました。ある意味では罵倒よりもきつい言葉を聞いているわけで、観客は豪太がどんな顔でこのときのチカの言葉を聞いているのかすごく見たいと思う。それをどう見せるか、カメラマンとも話し合って面白くなる撮り方を考えた結果、ガーンとズームで寄ってみました。あれを編集で初めて見たときは僕も笑っちゃいましたね(笑)。
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会
Q:ドラマ版を再編集して、そこにディレクターズカットを加えて映画化されたそうですが、作業はどのように進められたのでしょうか。
足立:映画では豪太とチカの二人にぐっとフォーカスして、尚且つ息苦しさみたいなものを出したいなと。それで家の中のシーンを多くしました。あとは章立てにして各章のテーマみたいなものをハッキリさせて、少しでも観やすくなればと編集していきました。
Q:私はドラマを観ずにいきなり映画版から拝見したのですが、なんの違和感もなく楽しめました。
足立:映画だけ観てそういうふうに感じてくださると、すごくホッとします。自分たちはドラマの全12話を何度も観ているので、「初めて観る人はどう思うのか」という不安がずっとありましたから。
Q:テレビ大阪のドラマとして配信の再生回数の記録を更新するなど大好評でしたが、この反響の大きさはいかがですか。
足立:セックスレスは多くの人が抱えている問題なので、興味を持ってくれる人はいるだろうなと。ただそれでも、“したい”、“したくない”、だけの話だと途中で飽きてしまう。そこからどこまで引っ張っていけるかは、その夫婦がどうあろうとしているのか次第。原作は、夫婦がなんとか夫婦であろうと必死にもがく話なので、観ている人にはそういうところまで感じて欲しかった。再生数が伸びた理由にそこも入っていれば嬉しいですね。
Q:映画の中には面白い要素がたくさんありましたが、濃厚な人間関係が一番面白かった気がします。
足立:僕も本当にそう思っています。今回は色んな登場人物が出てきますが、そのほとんどを一対一の関係で描きました。普通は第三者が絡むことが多いので、一対一の関係って実はそんなに描かれてこなかったのかなと。だからこそ、そこをグリグリやりたい願望が昔からずっとあったんです。
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原作/脚本/監督:足立紳
1972年6月10日生まれ、鳥取県出身。相米慎二監督に師事。脚本を手掛けた『百円の恋』(武正晴監督)が2014年に映画化。他の脚本作品に『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18/湯浅弘章監督)、『こどもしょくどう』(19/日向寺太郎監督)、『噓八百』シリーズ(18・20・23/武正晴監督)、『アンダードッグ 前編・後編』(20/武正晴監督)、「拾われた男」(ディズニープラス)、NHK 連続テレビ小説「ブギウギ」(23)など。自身の監督作品に『14の夜』(16)、『喜劇 愛妻物語』(20)、『雑魚どもよ、大志を抱け』(24)などがある。23年と25年には朗読劇「したいとかしたくないとかの話じゃない」の原作・脚本を務め、25年にはジョビジョバの坂田聡と「坂田足立連続デッドボール」を結成し、旗揚げ公演として上演した「6回の表を終わって7-0と苦しい展開が続いております(仮)」の作・演出を務めた。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』
5月30日(金)ロードショー
配給:東映ビデオ
©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会