1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『長崎―閃光の影で―』松本准平監督 監督として避けて通れなかった、原爆というテーマ【Director’s Interview Vol.506】
『長崎―閃光の影で―』松本准平監督 監督として避けて通れなかった、原爆というテーマ【Director’s Interview Vol.506】

『長崎―閃光の影で―』松本准平監督 監督として避けて通れなかった、原爆というテーマ【Director’s Interview Vol.506】

PAGES


加害者でもあった側面は忘れてはならない



Q:原案は当時の現場に招集された看護師たちの証言集「閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―」ですが、映画化にあたりどのような作業から始めましたか。


松本:まずは手記を読むことから始めて、当時の看護師さんたちの感情に少しずつ接近していったように思います。手記自体は当時の印象が散文的に書かれている内容だったので、それだけでは映画にすることは難しい。並行して様々な資料に目を通しながら、当時のことをできる限り緻密に把握しました。そこから手記のどの部分をピックアップして、どういう形で映画に積み込めるかを検証していきました。撮影する直前まで「何か新しい情報はないか」と、ネットや本を漁っていた記憶があります。


Q:赤ちゃんのエピソードは黒木和雄監督の『TOMORROW 明日』(88)とリンクしている部分があるそうですね。 


松本:『TOMORROW 明日』がビフォーだったら、この作品はアフター的なものになると、企画をいただいたときから聞いていました。『TOMORROW 明日』も手がけた鍋島壽夫プロデューサーから印象的な話を伺ったのですが、『TOMORROW 明日』では桃井かおりさん演じられる女性が出産をした直後に原爆が落ちるのですが、原作にも書かれていたそのエピソードに対して読者から質問があったそうなんです。「あのとき生まれた赤ん坊は生きているのですか、死んだのですか」と。それに対して原作者の方はしっかり答えることができなかった。そんな話を聞いたこともあり、赤ちゃんについてはこの映画に入れ込みたいという思いがどこかにありましたね。



『長崎―閃光の影で―』©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会


Q:「焼き場に立つ少年」の写真のようなシーンも出てきて、強く印象に残ります。


松本:「焼き場に立つ少年」はとても印象的な写真で、前のローマ教皇が広めたようですが、このエピソードはぜひ入れたかった。当時この写真を撮影した従軍カメラマンのジョー・オダネルさんの発言や資料などを調べて、あの少年がどういう形で弟を火葬したか、なるべく忠実に再現したいと思っていました。


実際の撮影では「焼き場に立つ少年」とまったく同じアングルも考えたのですが、その再現よりも長回しでワンシーンワンカットのような形にした方が良いと、カメラマンと相談した上で判断しました。あえて同じ画にはしなかったのですが、皆さんに思い出してもらえると嬉しいですね。


Q:原爆投下後の混乱の中でも、当時を覆っていた軍国主義や差別が根強く蔓延っていたことが描かれます。その描写を入れたことへの思いをお聞かせください。


松本:日本人は戦争を望んでやっていた。もちろん一人一人の思いは違いますが、日本全体があの戦争を受け入れていて、みんなで軍国主義を歩んでいたことを描かないと、彼女たちの置かれた立場がわかりにくい。そういった理由からも、軍国主義の表現は絶対に入れるべきだと思いましたし、実際に朝鮮半島出身者への差別があったことも長崎原爆資料館にちゃんと明記されています。そういった事実があったのであれば、それはちゃんと描きたい。日本の戦争映画では加害のことが忘れがちになることが多いのですが、日本人は戦争を率先してやっていたわけですから、被害者でもあるけれど、ある意味では加害者でもあったという側面は忘れてはならない。それがないと本当の反戦にはならないなと。



『長崎―閃光の影で―』を今すぐ予約する↓






監督/共同脚本:松本准平

1984年12月4日、長崎県生まれ。被爆3世。 東京大学工学部建築学科卒業、同大学院建築学専攻修了。吉本総合芸能学院(NSC)東京校12期生。カトリックの家庭に生まれ、幼少期からキリスト教の影響を強く受ける。友人たちとNPO法人を設立し、以降、映画製作を始める。 12年、劇場デビュー作となる『まだ、人間』を発表。14年、商業映画デビュー作として、芥川賞作家・中村文則の原作を映像化した『最後の命』を発表。NYチェルシー映画祭でグランプリ・ノミネーションと最優秀脚本賞をW受賞。17年、身体障害とパーソナリティ障害の男女の恋愛を、実話を基に描いた『パーフェクト・レボリューション』が公開。第25回レインダンス国際映画祭正式出品。22年、盲ろうの大学教授・福島智とその母・令子の半生を描いた『桜色の風が咲く』が公開。国内で多くの話題を呼び、フランス・香港・台湾でも公開。23年、歌舞伎町に生きるゲイと女子大生とホストの三角関係を描いた『車軸』が公開。第47回サンパウロ国際映画祭ほか数々の映画祭に招待される。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『長崎―閃光の影で―』

8月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国公開/長崎先行公開中

配給:アークエンタテインメント

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『長崎―閃光の影で―』松本准平監督 監督として避けて通れなかった、原爆というテーマ【Director’s Interview Vol.506】