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『アイム・スティル・ヒア』ウォルター・サレス監督 喜びとともに生きることは抵抗の形【Director’s Interview Vol.507】

©Sofia Paciullo

『アイム・スティル・ヒア』ウォルター・サレス監督 喜びとともに生きることは抵抗の形【Director’s Interview Vol.507】

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喜びとともに生きることは抵抗の形



Q:母親のエウニセを演じたフェルナンダ・トーレスとは以前も仕事をされていますが、彼女のこの役に適した特性とは何でしたか。


サレス:卓越した知性があることです。たとえば抑制を演じる際に、なぜエウニセが抑制するのか理解する知性、そして多くの異なる層を表現できる才能です。これは非常に難しい。なぜなら見せ場はないのに微妙なニュアンスに満ちている必要があるから。彼女の才能と知性のおかげで、それを成し遂げることができたのです。彼女はまるで映画の共同脚本家のようだったとわたしは思っています。


Q:本作でとても特徴的なのが、悲劇的な物語なのにとてもおだやかで、家族の笑顔が印象に残るということです。


サレス:わたしにとってこの家族の「流儀」を理解することが重要でした。わたしが思うに彼らの微笑み、彼らにとって喜びとともに生きることは抵抗の形だったからです。エウニセがどのようにして闘う方法を見つけたのかは、その過去に理由がある。つまりあの輝かしい過去に戻り、「わたしは被害者にならない」「被害者として見られない」と決意し、誰かが「悲しそうに振る舞ってください」と言うたびに、笑顔を見せることにしたのです。そのような生き方は彼女自身の抵抗の方法を再構築することだったのです。



『アイム・スティル・ヒア』©2024 VIDEOFILMES / RT FEATURES / GLOBOPLAY / CONSPIRAÇÃO / MACT PRODUCTIONS / ARTE FRANCE CINÉMA


Q:先ほどあなたはドキュメンタリーがあなたのルーツだとおっしゃいましたが、あなたのキャリアの初期には、日本についてのテレビ・ドキュメンタリー・シリーズを制作されていますね。その経験はいまのあなたに何か影響をもたらしていると思いますか。


サレス:たしかに日本の伝統と現代性の出会いについての5時間にわたるシリーズを作りました。その中で黒澤明監督やわたしが大好きな柳町光男監督、坂本龍一などさまざまなクリエイターと出会うことができた。わたしは日本の映画、音楽、文学が大好きなので、これについては何時間も喋ることができます(笑)。ともかく、こうした経験はすべて何らかの形で本作に反映されていると思います。どこかで、自分がやることすべてにそれは関係しているのです。たとえば黒澤明の映画はとても人間的でヒューマニズムに溢れている。彼は多くの点で並外れた映画監督で、わたしは大きな影響を受けました。また小津安二郎や溝口健二といった監督たちも、また別のタイプですがとても尊敬する巨匠です。



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監督:ウォルター・サレス

1956年、リオデジャネイロ生まれ。外交官で銀行家の父を持ち、幼少期をフランスやアメリカで過ごす。南カリフォルニア大学映画学部で学び、ドキュメンタリー制作を経て劇映画へと転向。1990年代以降、ブラジル映画復興運動「レトマーダ」の中心的存在として活躍し、国際的な評価を確立した。1998年に監督した『セントラル・ステーション』は、ベルリン国際映画祭で金熊賞と主演女優賞(フェルナンダ・モンテネグロ)を受賞。アカデミー賞®外国語映画賞・主演女優賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞および英国アカデミー賞(BAFTA)非英語映画賞も受賞するなど世界的な成功を収めた。続く『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)は、若き日のチェ・ゲバラの南米縦断を描き、カンヌ国際映画祭でエキュメニカル審査員賞とフランソワ・シャレ賞を受賞。アカデミー賞®歌曲賞受賞・脚色賞ノミネートを果たす。ダニエラ・トーマスと共同監督した『リーニャ・ヂ・パッシ』(08)では、カンヌ国際映画祭主演女優賞(サンドラ・コルヴェローニ)を獲得。さらに2012年には、ジャック・ケルアックの小説を映画化した『オン・ザ・ロード』を発表し、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された。近年は、若手映画作家の育成や映画保存活動にも尽力しており、2020年にはその功績が認められ、国際映画アーカイブ連盟(FIAF)賞を受賞。映画という表現の未来と記憶の両方に光を当て続ける存在として、今なお世界の注目を集めている。



取材・文:佐藤久理子 

パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。




『アイム・スティル・ヒア』

8月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

配給:クロックワークス

©2024 VIDEOFILMES / RT FEATURES / GLOBOPLAY / CONSPIRAÇÃO / MACT PRODUCTIONS / ARTE FRANCE CINÉMA

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